職場以外の居場所「サード・プレイス」のない状態

その背景には、そもそも職場で極めて長い時間を過ごしてきた、「長時間労働」の問題があります。特に日本は残業時間が男性に極端に偏っている国です。都市部では通勤時間も長く、家にいる時間が短くなり、「職場以外に居場所がない」状態を招きがちです。

テレワークせずに出社することも、家に帰らないことも、居場所のなさをシンボリックに表しているように思います。

「職場以外の居場所」とはどういうことか。都市開発や都市社会学の分野では、職場と家庭以外の「第三の場所」を意味する、「サード・プレイス」という場が注目されてきました。

サード・プレイスとは、⾃宅を「ファースト・プレイス」、職場を「セカンド・プレイス」と捉え、そうした場以外の憩いや交流の場を指す言葉です(※2)

湖のほとりで陽にあたりながらリラックスする男性
写真=iStock.com/ImageegamI
※写真はイメージです

日本は、職場以外での生涯学習の慣習が薄く、宗教的な集合活動もなく、NPOなどの社会活動や社会運動も国際的に見れば貧弱です。こうしたサード・プレイスのなさは、中高年の「帰らない」問題に直結しています。

こうした「居場所のなさ」は、日本の住空間という物理的環境も関係しています。高度成長期に急速に進んだ日本の住宅の郊外化は、生活空間を「職場」と「家庭」に二分。性別役割分業に応じて、それぞれの空間を男女に振り分けてきました。

郊外に自宅を構え、夫は長時間、満員電車に揺られ都心部に通勤し、妻が育児と家庭生活を中心に過ごす。この「働く」と「育てる」の規範的/空間的隔たりを前提として都市開発が進行してきました。

自宅の住環境も空間的な分業に合わせて作られているので、家では職場と同じように働ける環境は整っていません。テレワークの普及においても、デスクや椅子、Wi-Fiの通信環境が整っていないことが大きな障害となりました。

中高年になると、人付き合いや交友範囲が狭くなる

サード・プレイスのない中高年が、テレワークや働き方改革といった環境変化の中で、家庭という「自分以外=妻」に割り当てられた空間ではなく、慣れ親しんだ職場に居続ける……。

こうした物理的な空間としての「居場所のなさ」が、「帰らない」問題の背後には重くのしかかっています。

「話さない」――もう一つの中高年の特徴、それは「話さない」ということです。「話さなさ」とは、「帰らない」という問題の裏表と言えますが、自分以外の他者との対話や交流の少なさを意味しています。

職場と家庭以外の場において人との交流が少ないことによって、中高年のコミュニケーションにも影響が出ます。もう少し掘り下げれば、そこには「量」と「質」の二つの側面があります。

「量」の面で言えば、中高年になると単純に他人との交流・接触量が減っていきます。先程の「居場所のなさ」にもつながりますが、中高年になると、人付き合いや交友範囲が狭くなることは、いくつもの調査で示されています。

国際的に見ても、社会的な人との縁、社会関係資本が極めて希薄なのが日本人です。