やはり即位されるおつもりはない

現に、平成29年(2017年)12月、江森氏が「皇嗣こうし(その時点で皇位継承順位が第1位の皇族)就任の儀式」(立皇嗣の礼)を行った方が良いという政府の考え方について尋ねると、「『どうでしょうかね』彼(秋篠宮殿下)は考える振りを見せた。だが、明確な回答はなかった」(37ページ)という。

また、平成31年(2019年)2月に同氏が「(同年=令和元年)5月から皇嗣殿下となられます。皇嗣殿下としての心構えや決意を教えてください」という、普通に予想される質問をした時、秋篠宮殿下は「『うーん』と、しばらく考えていたが、求めていた答えは返ってこなかった」。重ねて質問をしてやっと返ってきた回答は、「象徴天皇制を担うのは、あくまでも天皇であり、私は兄を支える、助けることに徹するのではないでしょうか」(128~129ページ)というもの。

こうした答え方は、ご本人が自らの即位を考えておられないことの表れではないだろうか。

天皇陛下よりわずか5歳お若いだけの秋篠宮殿下が、ご高齢での即位辞退のご意向を示されたと報じられたのは、この取材の2カ月後だった(朝日新聞デジタル、平成31年〔2019年〕4月20日20時20分配信)。しかし、その後の取材でも、この報道の真偽や殿下ご自身のご本意について、江森氏がストレートにお尋ねした様子が見えない。

秋篠宮殿下が、「皇太子(皇太弟)」という“次の天皇になられる”ことが確定している地位を示す称号を辞退され、その時点で皇位継承順位が第1位であることを示す一般的呼称にすぎない「皇嗣」を名乗ることになり、「秋篠宮」という傍系の皇族であることを示す宮号みやごうをあえて維持された事実も、即位されるお考えがないからこそ、と受け取れる。しかし、同氏はその点について「宮内庁関係者」に質問したのみで(132ページ)、殿下ご本人には直接、質問をぶつけていないようだ。事柄の重大さを考えると、少し不思議な気がする。

いずれにせよ、この本を読むかぎり、私の推測を訂正しなければならない理由は見いだせなかった。

第1章に、眞子さまのご結婚をめぐる内幕

一般の読者が最も注目するのは、秋篠宮家のご長女、眞子さまと小室圭氏のご結婚をめぐる“内幕”かもしれない。本書でも、そのテーマが第1章(!)に据えられている。

秋篠宮殿下の基本的なお考えは「憲法には『婚姻は、両性の合意のみにもとづいて成立する』と書かれています。私は立場上、憲法を守らなくてはいけません。ですから、2人が結婚したい以上、結婚は駄目だと言えません」(24ページ)ということ。このことは、すでに公表されている殿下の記者会見の内容からも知られていた。それ自体は至ってまっとうなご姿勢と言える。

ただし、当事者の気持ちが最優先されるべきことはもちろんであっても、お2人のご結婚に対してご両親が(促進的であれ、その逆であれ)一切タッチできない、ということではなかったはずだ。