憲法に関する初歩的な“誤読”

憲法99条に憲法尊重擁護の義務についての一文がある。

〈天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う〉

彼(秋篠宮殿下)は憲法99条を踏まえながら、私にこのように話したことがある。
『皇族は天皇に準じる立場なので、この条文通り、憲法を尊重し擁護しなければなりません』
この言葉を聞いて私の頭は、すかさず反応した。ということは、首相や大臣たち、それに国会議員たちは『憲法を改正します』と、軽々しく発言してはならないはずだ。逆に、『私たちは憲法を守ります。改正はしません』と、国民に対して宣言すべきところなのではないか(229ページ)

これは、憲法改正に賛成か反対か、改正するならどんな改正か、という政治的立場には関わりなく、憲法条文の初歩的な“誤読”と言うほかない。

憲法の尊重擁護義務というのは、当たり前ながら、憲法「改正」条項(第96条)も含めて“尊重し擁護する”ということ。だから、憲法改正条項に定める要件を逸脱した場合はもちろん許されないが、そうでなければ「改正はしません」という立場とは直接、結びつかない。

それどころか、憲法の改正は、衆参両院の3分の2以上の賛成で、「国会」が「発議」することが求められている(同条第1項)。そうであれば、「国会議員」が憲法改正に関与することは、憲法それ自体の“要請”ですらある。

天皇およびそれに「準じる立場」の皇族が憲法改正に関わることができないのは、第99条に抵触するからではない。そうではなく、何よりも「国政に関する権能を有しない」(第4条1項)からであり、さらに「日本国民統合の象徴」(第1条)たる地位にふさわしくないからに他ならない。

この本には、政治的偏向に基づくと思われるこの種の的外れな記述がやや目につく。思想・信条はもちろん書き手の自由だ。しかし、そのことが殿下への取材の仕方や、ご発言の受け止め方、取材内容の取捨選択などに何らかのバイアスをもたらしていないか、少し心配になる。

近頃刊行された皇室関係の図書では、成城大学教授・森暢平氏の『天皇家の恋愛』(中公新書)の方がよほど有益だろう(もちろん、その立論にすべて賛同するわけではないが)。

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