「かつてのような株式の売買手数料中心から、どれだけお金を預けていただくかに、証券会社のビジネスモデルは大きく変わっています。そこでは顧客の立場になって物事を考えられる人間性豊かな社員が、粘り強く信頼関係を築き上げていくことが重要になります。ですから、そうした人材を育てて大切にしていく働き方にシフトするのは、当然のことなのです」
04年6月の社長就任以来、最長3年の育児休職をはじめとするワーク・ライフ・バランスの拡充を進め、今回の19時前退社の励行を提唱した鈴木茂晴・大和証券グループ本社社長が語る。その鈴木社長も若いときは支店での営業経験があり、「身も心も会社に捧げた」と語るほどの営業マンだった。
「たまたま18時や19時に仕事を終えて友人と飲みにいこうと思っても、約束なんてできません。いつ早く帰れるのかわからなかったからです。自分の時間がコントロールできないのは、やはりどこかおかしい。第一、毎日夜遅くまで働いていたら、心身ともに持ちません。以前から仕事の時間効率の見直しを考えていました」
鈴木社長のモットーは「ワークハード・ライフハード」。仕事も一生懸命、家庭を含めた個人の生活も一生懸命ということだ。その2つがバランスされてはじめて、働きがいが高まり、社会人、そして家庭人として豊かな人生を築き上げられる。鈴木社長は帰宅してから、趣味のカントリーのベース演奏を楽しむこともある。
しかし19時前退社の励行がスムーズに導入されたのかというと、そうではなかった。「少し退社の時間を早めることはできても、これは絶対に無理」と全役員が反対。また支店長からは「仕事量が増えているのに早く帰りましょうなんて、矛盾しているのではないか」と批判された。何を隠そう中田さんも「かなり窮屈な働き方になるのではと感じました」と話す。