灘の勉強法は「柔道式アクティブラーニング」だった

灘中学・高校は、創立以来、柔道教育に力を注いできた歴史があります。中1から高1まで4年間、週1回の柔道の授業は必修で、卒業までに黒帯を取得する人もたくさんいます。本校創立時の顧問は、ご存じのとおり講道館の創設者で、“柔道の父”とも呼ばれる嘉納治五郎先生で、嘉納先生が柔道の修行法として提唱したのが「形→乱取り→講義→問答」の四つのサイクルです。

灘中学校・高等学校校長の和田孫博さん(撮影=森本真哉)
灘中学校・高等学校校長の和田孫博さん(撮影=森本真哉)

まずは基本の形を覚え、それを乱取りでしっかりと反復練習する。競技としての最近の柔道は、ここまでになってしまいがちですが、本当に大切なのは汗を流して練習した後、その理論を座学でしっかりと学び、疑問に思ったことをコーチや仲間たちと語り合う講義と問答の時間なんですね。

実はこのサイクルは、スポーツだけでなく、あらゆる教科の勉強にも応用できます。数学なら、形は公式、乱取りは練習問題、講義と問答は理論と質疑です。このサイクルを子供が自主的に行えれば、それは探究型学習であり、アクティブラーニングであるわけです。

その意味で灘では、創立以来、アクティブラーニングが行われてきたのです。

もう一つ、嘉納先生の言葉で本校の校是にもなっているのが「精力善用」「自他共栄」です。自分の得意な力を最大限発揮し、その個々の力をみんなの利益のために結集させるという意味です。

現代社会は過度に競争化が進んで、そのために貧富の格差などの対立が深刻になっています。ですから「一度でも失敗したらおしまい。どんな手段を使ってもライバルを出し抜いたほうが勝ち」という発想がはびこり、それが子供の教育にも反映されています。

ですが、私は少子化で人口が減少していく中で、この“競争”は“協働”に変わっていく、いかねばならないと考えています。嘉納先生の言葉のとおり、自分の得意分野を磨いて、個々の力を結集し協働していく世界です。

「精力善用」にあたって最も大切な力が「粘り強さ」です。最近では非認知能力などといわれ、Guts(度胸)、Resilience(復元力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)の頭文字を取って、GRITとも呼ばれますが、要は自分で課題を見つけ、困難に立ち向かい、失敗しても諦めずに最後までやり抜く力、という意味です。

灘の生徒は認知能力=IQが高く、成功体験には恵まれているのですが、友達と遊ぶ中で失敗したり、ケガをしたりという体験が少ないために、挫折に弱く、立ち直りが遅い子もいます。スポーツや運動は、そんな能力も高めてくれます。ぜひ、ご家庭で取り入れてやってください。

(構成=田中義厚)
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