家電量販店でメーカーの販売員から自社製品をPRされたことはないだろうか。こうしたスタッフを店舗に一切置いていないのがノジマだ。予算やノルマも設けないという独自路線で、最高益を6期連続で更新しているという。独自路線に至った経緯を野島廣司社長に聞いた――。

メーカー派遣スタッフを店舗に置かないワケ

横浜市に本社のあるノジマは、首都圏中心に205店舗を持つ業界6位の家電量販店だ。最大の特徴は「コンサルティングセールス」で、店頭に立つのは自社の従業員のみ。競合他社のようにメーカーや携帯電話会社からの派遣販売員を置いていない。量でなく質を売るから、「家電質販店」。社長の野島廣司氏(71歳)のネーミングだ。

冷蔵庫売り場で接客するノジマのシニア従業員
写真提供=ノジマ
冷蔵庫売り場で接客するノジマのシニア従業員

以前はメーカーから派遣されたスタッフがいたこともあったが、野島氏が社長に就任した1994年ごろから使わなくなった。理由は「店としてはメーカーに関係なく、お客さまに欲しい商品を買ってほしいのですが、派遣スタッフは派遣元のメーカーの商品を売るのが仕事です。彼らの給料はメーカーが払っていますから、接客方法にわれわれは文句を言えません。そこで販売員を全員自前にし、どの従業員もお客さまの立場に立って、一人ひとりのニーズに合った商品を提案することにしたのです」。

筆者も2021年11月にオープンしたノジマ新宿タカシマヤタイムズスクエア店に行ってみた。買い替え時期が迫っている洗濯機の売り場をウロウロしていると、販売スタッフが近づいてきて「何かお探しですか?」。こちらの希望を聞き、2社の製品について説明してくれた。サイズも「毛布などを洗うならこちらはどうでしょうか」と具体的な提案。「少し考えます」と言ったところ、名刺を出して「またご来店、お待ちしています」。2社の商品パンフレットも渡してくれて、気持ちよく帰路についた。

ノルマやマニュアルは奴隷と支配者の象徴

こうした販売方法と表裏一体なのが、同社の「予算なし、ノルマなし」という方針。「マニュアル」も極力少なくしている。この方針について野島氏は「日本的経営」と説明することが多い。戦後日本の「年功序列」「終身雇用」は、すっかり否定されている。それと現在のノジマとの接点を尋ねたところ、戦後の日本的経営ではなく、江戸時代後期から大正時代の経営だと答えが返ってきた。

いわく、ノルマやマニュアルで無理やり働かせるのは西洋的な経営スタイル、奴隷と支配者の関係だ。その点、大正までの経営は全く違う。二宮尊徳、ペリー、坂本龍馬、福沢諭吉と歴史上の人物の名が次々挙がった。

「福沢諭吉が明治初期にいれた複式簿記は『結果』を整理するためのもので、上から何かをやらせるためのものではなかった。予算もノルマもない江戸から大正までは、日本国民がアイデアを出したり努力をしたりしたから、人口も増え、経済も成長した。社会に安心感が広がっていったからだと思う。そのスタイルを見習い、全員が経営者あるいは家族、そういう経営をしたいと進めています」

こういう考えにたどりついたのには、いくつかの布石があった。