「やりたいことをやる」の原点は自身の体験

予算なし、ノルマなしについて野島氏は、ハーズバーグの法則から説明する。満たされることで仕事の満足につながる促進要因と、整っていない状態であると社員が不満を感じる衛生要因は別だという理論だ。

「促進要因は何かと考えた時に、自分の挑戦したいことに挑戦すれば必ず満足度は上がります。例えば嫌な上司に1と命令されたら、出てくる成果は0.3。比較的関係のいい上司で0.7。それが自発的にやり始めると1.5にも1.6にもなる」

0.7と1.5の間に「私の家庭のように50年夫婦を続けてなんとか1になるかどうか」と笑って挟むのが野島流だ。この「やりたいことをやる」には、自身の体験がある。入社当時、野島電気商会は倒産寸前だった。「廃墟のようだった」という2階の売り場を、学生時代から好きだった単品コンポ専門コーナーに変えた。売れ残った在庫を売って現金化、自分で選んだ商品を仕入れ、立て直した。

「つぶれそうな会社の財産を安売りして次のビジネスモデルに変えていくんですから、すごいプレッシャーでした。その後もいろいろ新しいことに挑戦するたびにドキドキして怖いんだけど、やり遂げると楽しいんですよ。そして自分も良くなっていきます」

野島社長は倒産寸前だった家業を1人で立て直した
撮影=西田香織
野島社長は倒産寸前だった家業を1人で立て直した

店舗従業員は社長にアイデアを直接提案できる

その楽しさをわかってもらうには、トライ&エラーをしていくこと。それがノジマの方針。例えば店舗従業員は、店長を飛び越えて会社に直接、決裁提案ができる仕組みがある。

「富士登山でも吉田ルート、御殿場ルートと道はいろいろあるわけで、やり方もそうです。要は世の中にお客さまに認められればよく、認められなかったら発想を変える。変えられるかどうかが大切です」

最近まで社長のところに5万円からの決裁書が上がってきて、1日50件ほどを決裁していた。最近は少し変わったが、とにかくアイデアが第一。決裁申請書には、その提案でどのくらいの成果が上がるか、去年と比べてどうか、それをビシッと書いてもらう。申請が通っても、結果が達成できない場合は3カ月間上程禁止となるルールもある。

また当然ながら、同社にも数値管理はある。自ら目標を決め、その達成度などで会社への貢献度が毎月、順位づけされる。年に2回の人事考課では「360度評価システム」と呼ばれる仕組みも導入し、上司や部下、他部署の人など10人からのコメントが本人にフィードバックされる。自分を客観的に見て、その結果を努力に変えるパワーのある人材を育てていくという狙いがある。

「明治維新後、日本はアイデアで伸びたんです。数字は相対評価しますが、それよりもアイデアですね。上程禁止を悔しいと感じて、努力してくれる人がより多くほしい。会社に損をさせたな、今度は取り返そう。そう思う人が増えてくれるとありがたい」