一流の人物ほど、ごまかしや建前を見抜く

本音をぶつけたら、機嫌が悪くなるかもしれない、嫌われるかもしれないと恐れるのは、相手をむしろ“馬鹿にしている”ことだと私は考えています。

相手の人間性や器の大きさを認めていないから、本音を言ったら気分を害するんじゃないかと忖度そんたくするわけです。相手がそれだけの人物でしかない、と見切りをつけていることに他なりません。

見切りをつける、ということはある意味で馬鹿にしているわけです。

相手を馬鹿にしているから、ビビり、怖くなる。相手を認め信頼しているからこそ、正直になって裸で向き合えるわけでしょう。

相手を馬鹿にしているということ以外にも、ビビってしまうことの原因があります。相手に対して自分をよく見せようとか、本音を隠してごまかそうとしているのです。

自分を大きく見せようというのもごまかしだし、本音を隠すのもごまかしです。ごまかすと人はどこか卑屈になり、自然体でなくなります。そんな人間に対して、誰も本音で向き合いたいとは思いません。

ごまかしや建前ばかりで取り繕う人間を、一流の人物ほど見抜きます。あっという間に底を見透かされてしまうのです。

田中角栄に本音で話せと叱られた

大物だとか一流の人物には、嘘や建前は一切通じない──。そのことを私に直接教えてくれたのが田中角栄さんでした。そして、本音で勝負するためには何が必要かを教えてくれたのも田中さんでした。

私が初めて田中さんに雑誌の取材でインタビューしたのは、田中さんが失脚して6年目、たしか1980年だったと思います。

午前11時、場所は目白の田中邸。しかし、30分経っても1時間経っても始まりません。そこで、秘書の早坂茂三さんに、なんで始まらないんだと聞きました。

すると、田中さんはいま私に関する資料を、必死で読んでいるというんですね。

なんでも昨日、私の著書などを一貫目集めさせたといいます。一貫といえば4kgぐらいです。それだけの資料というのは相当な量です。

図書館でタブレットと書籍を広げる男性
写真=iStock.com/vm
※写真はイメージです

それで、ようやく田中さんが出てきてインタビューが始まりました。

すっかり私のことが頭に入っていますから、田中さんはこちらの質問に的確に答えてくれます。

そうこうしていると、私の質問に突然、「違うだろ。そんなことには興味ないだろ」と言うのですね。

私という人間と、その仕事をすでに理解している田中さんは、私の建前の質問を見抜いて、お前が本当に聞きたいことを、本音で話せと言ってくれたわけです。