相手の本音を引き出すには、どうすればいいのか。ジャーナリストの田原総一朗さんは「それはこちらの本音をぶつけることだ。一流ほど建前やごまかしが通用しない。たとえば田中角栄元首相でのインタビューでは、私のジャーナリストとしての型を決めるほどの経験をした」という――。

※本稿は、田原総一朗『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

激怒した男性が指をこちらに指して怒鳴っている
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私には嘘をつく能力がない

嘘はつかないとか、本音で勝負するというと、格好良く聞こえるかもしれません。

ですが、本当のことを言うと、私は頭がよくないだけ。嘘を覚えておくことができないだけなのです。嘘をつくと、必ずボロが出てしまいます。

嘘をつき通すには、嘘に矛盾しない言動を取らないといけません。ところが、その能力が私には決定的に欠けているのです。だから、「嘘がつけない」というのが正確です。

スパイは、嘘のつき方を訓練するそうです。たとえば、自分の出身地をごまかしたとしたら、嘘の出身地について徹底的に調べておくのです。

地理的なこと、歴史的なこと、周辺の駅の名称はもちろん、バス停の名前と時間まで、本当に自分の出身地のように頭に刻み込みます。誰に何を聞かれても、「おかしい」と思われないように、調べて記憶するそうです。

田原総一朗『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)
田原総一朗『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)

嘘をつくと、どんどん身の回りに余計なものがくっついてきます。いろいろ処理しなければいけない仕事が増えてくるわけです。

嘘をつかなければ、そういうものがなくなります。だからシンプルで動きやすい。私は不器用だから、シンプルにしておかないと対応できなくなるのは、目に見えているわけなのです。

その意味で、私は不器用でよかったと思っています。

嘘を言うことが人より少ないので、自然とすべてがシンプルになっていく。余計なことにエネルギーを使う必要がないのです。