世界的な金融会社で活躍し、日本学を学んでいたアトキンソン氏
一方、デービッド・アトキンソン氏は、アメリカの金融会社ゴールドマン・サックスの役員を務めていたイギリス人で、今は小西美術工藝社という日本の伝統建築の修繕と補修をする会社の社長をしています。
なんだか経歴の前半と後半が別世界すぎる感じがしますが、もともとはオックスフォード大学で日本学を専攻していて、裏千家の茶道をかなり本格的にやっているような人で、たまたま別荘のお隣さんだった小西美術工藝社の前社長と個人的に知り合って依頼されて今に至るそうです。
小西美術工藝社の経営を引き取ってからは、ドンブリ勘定だった経営を適正化して原資を作り、4割が非正規雇用だった職人を正社員化。技能継承のための若い人も雇い、中国産の漆を国産の漆に切り替えるなどの改革を行ったことで知られています。政界との結びつきも強く、先の政府の経済対策会議のメンバーに選ばれるほか、第二次安倍政権時代から続く日本の「インバウンド重視」政策には、彼の主張の影響がかなりあると言われています。
アトキンソン氏はいわゆる「アングロサクソン」のイギリス白人であり、アメリカ型グローバル資本主義を牛耳る伏魔殿のように一部の陰謀論者から思われているゴールドマン・サックス出身でもあるためか、竹中氏以上に「イメージが悪い」ところはあります。
特に岸田政権になってからは、「新自由主義的経済」への批判の矛先が、竹中氏よりもアトキンソン氏に向くことが増えてきています。
竹中氏とアトキンソン氏の決定的な違いはどこにあるか
ここで大事なのは、竹中平蔵氏本人が必ずしも「血も涙もないクズの政商」というわけではないように、デービッド・アトキンソン氏本人も「清廉潔白で無謬の政策提唱者」ではないことです。それを大前提としつつ、「彼らが実際には何を言っているのか」「竹中路線とアトキンソン路線の違いは何か」を見ていきます。
アトキンソン氏はSNSや一部論壇では「中小企業をつぶして、大企業を利する政策ばかり進めようとしている」と批判されていますが、実際にはそこまで雑な話はしていません。また、「とにかく規制を撤廃して徹底的に競争させればいいのだ」という原理主義化した竹中平蔵型市場主義とも、随分違うことを言っています。
では「竹中平蔵路線」と「デービッド・アトキンソン路線」の最大の違いは何か。それは、「市場原理主義が自己目的化」しているか否か、という点です。
ここ20年、とにかく「競争が足りていないから競争して叩き合いをさせさえすればうまくいくのだ」という「宗教の教義」のようなものが世界中でまかり通り、ありとあらゆる規制を撤廃し、もっと徹底的に競争させること自体が「善」であるというような議論が、人類社会全体を席巻していました。
つまり、「結果」として経済がうまくいくことを目指しているのではなく、「何らかの規制などに守られて競争が抑制されていること自体が原理主義的に悪」だと考えられていました。とにかく徹底的に市場で叩き合いをさせさえすれば経済が上向くのだという「神話」こそが、「血も涙もない市場原理主義(ネオリベ)」を突き動かしていたと言えるでしょう。