アトキンソン氏は「中小企業潰し」を狙っているのか

その波は日本にもやって来ました。「偶像」としての竹中氏は、まさにそういう「血も涙もない市場主義」の代表的人物だと思われてきましたし、本人もその役割を心得たような発言を繰り返してきた側面があります。

「日本の民間企業には競争が足りない」「雇用を流動化させ、市場原理を徹底すれば、ダメな企業は自然に淘汰される」「労働者も生産性が低い。これは競争原理がうまく働いていないからだ」……これらが竹中氏の発言だとしても違和感はないでしょう。

しかしその結果、日本経済はどうなったでしょうか。例えば運送業などの「下請け構造」的に産業を支えている分野で徹底的に競争させた結果として、末端の労働者が果てしなく買い叩かれ、どんどん過大な要求を押し付けられ、酷い労働環境と慢性的な低賃金が定着してしまっている。そんな風景が日本中に蔓延しています。

「とにかく競争して叩き合いをさせればいい」という竹中平蔵型の市場原理主義に対して、「アトキンソン路線」というのはどういう方向性なのでしょうか? アトキンソン氏に対する批判で最も苛烈なものは「中小企業潰しを企図している」といったものです。確かにアトキンソン氏は、「ある種の中小企業は統廃合した方がいい」と言ってはいますが、丁寧に見ていくと「反アトキンソン派」が蛇蝎のごとく氏を嫌うような論調ではありません。

日本企業のサイズは急激に小さくなっている

実際のアトキンソン氏の主張によると、日本の中小企業が「あまりにも小さいサイズ」に放置されているのは、人工的な政策の結果だ、といいます。アトキンソン氏の著書、『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長』(東洋経済新報社)によれば、日本における「一社当たりの平均従業員数」は、1964年を境に“劇的”に減っています。つまり「企業のサイズ」が急激に小さくなっていることになる。

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写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

1964年に何があったかというと、OECD(経済協力開発機構)に加盟するに当たってその前年に「中小企業基本法」が制定され、「会社を大きくするよりも小さいままにしておいた方がトク」な制度をアレコレ導入し、それが今も残っている、というのがアトキンソン氏の主張です。

アトキンソン氏のこの本には、各国の経済分析から、それぞれの国の「企業規模の構成比率」と「労働生産性」はかなり比例関係があるという研究が紹介されています。ざっくり言えば、

・「中小企業を増やすと雇用数が増えるが、平均賃金が下がる」
・「中小企業を統合すると雇用数は減るかもしれないが、平均賃金を上げられる」

という効果がそれぞれあるため、高度成長期には「中小企業を増やす」政策にも意味があったものの、今のように少子高齢化で労働人口の激減が大問題である時には、「統合」していくことの意味の方が大きいということです。