野球というスポーツがエリート化している

【藤田】サッカーってボール1つあったらできますし、ルールを知らない小さな子でもなんとなく見よう見まねでできてしまうじゃないですか? でも野球ってまず、打つ、投げる、捕るが見よう見まねですぐにできないんですよね。

撮影=株式会社apricot.h、宇田川淳

【辻】確かにそうですね。野球はなんとなくじゃなくて「野球をやる」と思わないとできないですよね。

【藤田】ある程度できるようになるまでの技術修練がすごく必要なスポーツですよね。時間も手間もかかる。ただでさえ野球との接点が少なくなっている今、そのあたりも野球を選ばない子が増えている原因の一つだと思うんですよね。

【辻】それはあるでしょうね。

【藤田】あとは学童野球から高校野球までエリートスポーツ化していると思うんです。学童野球も毎年勝ち上がる強いチームは決まっていませんか?

【辻】大阪だと勝ち上がってくる4チームくらいは大体決まっていますね。滋賀はその年によって2番手、3番手が変わってくるという感じですね。ただ、各地区の代表で出てくるチームは大体決まっていますね。

【藤田】それが中学、高校でも同じ状況になっているように思うんです。強豪高校に進めるのってほとんどが中学時代に名を馳せた野球エリートですよね。その野球エリートが多く集まっている高校が甲子園に出てくる割合が昔よりも高くなっている気がします。でもその一方で野球をやる子は減っていき、チーム数も減り、合同チームなども多くなっている。そもそもお金もかかる。

【辻】道具にお金がかかるのは確かに大きいですよね。

【藤田】そこも含めて野球がエリートスポーツ化していますよね。そこも考えていかないといけない問題ですよね。

教育や躾はもはや野球のアピールポイントにはならない

【辻】僕は33年監督をやってきましたけど、ここ数年感じているのは家庭で子どもの教育がしっかりできているということです。

【藤田】家庭での教育、ですか?

【辻】何が言いたいかというと、昔ってちょっと元気が良すぎて手に余るような子をチームに預けたりしていたと思うんです。僕も昔は保護者によく言われましたよ、「なんかあったらシバいたってください」とかね。家庭ではできない子どもの教育を学童野球チームに求めていたと思うんです。

【藤田】なるほど。確かに。

【辻】でも今の子どもって、昔に比べて成長が3、4年早いと思うんです。昔よりも子どもが大人なんです。だから昔みたいに野球チームに教育や躾を求めたりしない保護者が増えましたよね。そこに学童野球の価値をあまり感じていないと思うんです。

それなのに、野球をやったら礼儀、挨拶、マナーが身に付きます、みたいなことを謳い文句にしているチームが多いじゃないですか。もちろんそれは悪いことではありません。でもそもそも今の時代の子はそれができている子ばかりなので、そこをアピールしても保護者の心には刺さらないと思うんですよね。

【藤田】礼儀、挨拶、マナー、とは違うアピールポイントがないと選ばれにくくなっているということですよね。

【辻】そう思いますね。