相手の好プレーを賞賛してはいけないという空気
【藤田】「スポーツマンシップ」はもちろん大事です。僕も指導者講習を受けて学びました。でも正直、いろんな項目があってすごく長いんですよね(笑)。スポーツマンシップの成り立ちとかいろいろあって。そのまま子ども達に落とし込んでも大部分が「?」だと思うんです。僕も「?」がたくさん浮かびましたから(笑)。
だから小学生のうちは「試合相手に敬意を払う」「努力をすることの大切さを知る」「審判に敬意を払う」くらいを学べればいいんじゃないかって思うんです。中学、高校と上がっていくにつれて少しずつ学んでいけばいいと思います。
【辻】2021年の秋、地区予選の決勝戦があってうちが優勝したんです。点差も開いていたんですけど相手のショートの子がめちゃくちゃいいプレーをしたんです。そしたらうちの子ども達は「ナイスプレー!」ってベンチから立ち上がってみんな拍手ですよ。
【藤田】いいですね、その文化! 相手への敬意ですね。
【辻】最終回も相手のバッターがうちのエースからパカーン! って、ライトにフェンスオーバーのホームランを打ったんです。そしたらうちの子ども達はみんな、相手の選手に「ナイスバッティング!」ってスタンディングオベーションですよ。打たれたエースの子だけはガックリうなだれていましたけど(笑)。
【藤田】相手チームも嬉しいでしょうね。
【辻】うちのチームってそんなにスポーツマンシップがどうのこうのと言わなくてもそういうことが自然にできるんです。素直に育てていたらいいプレーには相手も味方もなく自然に讃えることができる、そういうふうになると思うんです。
【藤田】なるほどね。
対戦相手=敵という意識をなくす必要がある
【辻】大人がスポーツマンシップに反することを教えているから相手チームを讃えるようなことができないのであって、子どもを素直に育てていたら「スポーツマンシップ」という言葉さえもいらなくなるはずなんです。スポーツマンシップの教育を子ども達にしなければならないということは、それだけ学童野球の現場で大人が逆のことを教えてきているから。だから改めて教えて上書きしないとダメということになるなんでしょうね。
【藤田】僕も保護者として試合を見ていて相手チームのプレーに「ナイスプレー」とか言うと、隣の人から「なんで相手チームを応援しているんですか!?」みたいな顔をされるんですよね(笑)。
【辻】相手は「敵」だと思っているのでしょうね。敵ではなく野球をやっている仲間なのにね。
【藤田】多賀は辻さんが「相手のいいプレーもちゃんと褒めるんだぞ」とか教えてきたわけではなく、辻さんが相手チームを褒めている姿を見て、子ども達も自然にそうなったんですか?
【辻】そうですね。そういうところを見ていたら自然に、という感じですね。相手を認める、相手を褒めることが気持ちいいと感じていると思います。やっぱり野球をやっている同じ仲間だという意識があるからでしょうね。
【藤田】その意識がないんですよね、ほとんどのチームは。対戦相手は「敵」という感覚が強すぎるんですよね。
【辻】その「敵」意識をいい加減なくさないといけないですよね。だからうちのチームをぜひ多くの方に見ていただきたいと思っているんです。うちが強いからとか、優勝しているからとかではなく、子どもが子どもらしくしている様というか、グラウンドに入ってきてもおしゃべりしている子もいれば、キャッチボールをしたりアップをしたりバント練習をしたりする子もいる。
何も強制せずに各々が好きなようにやっているんですけど、相手チームのいいプレーを自分のことのように喜び、讃えることができる。そういうところを見ていただきたいんですよね。それで「多賀みたいなチームがいいな」と広まってほしいんです。
そうやって「楽しくて強い」チームが増えていかないと野球人口は増えていかないと思っていますから。さっきも言いましたけど、子どもの野球人口が増えていくかどうかは影響力のある東京にかかっていると思います。だから東京にこういうチームがもっと増えていかないとダメですよね。
【藤田】そうですよね。だから多賀を東京のいろんなチームに見てもらいたいですし、「多賀東京」をやっぱり作ってほしいですよ、辻さんに。