今般のミサイル発射は軍事的挑発ではない

かつて北朝鮮は、アメリカ独立記念日(7月4日)に1日で7発の弾道ミサイルを発射したことがある。2006年と2009年のことだ。このとき発射されたのは実戦配備済のスカッドとノドンが中心で、軍事的挑発が目的だった。

それに対し、今年に入ってからのミサイル発射は、核兵器やミサイルを扱う戦略軍ではなく、ミサイルの開発を行う国防科学院や軍需を担当する第2経済委員会が主体となって行われている。この点には注意が必要だ。これは今般のミサイル発射が軍事的挑発とは性格が異なり、軍事力強化を目的としていることを示唆している。

30日に発射されたのは中距離弾道ミサイル「火星12」と目されている。朝鮮中央通信では「今後生産される火星12型兵器システムの正確性と安全性、運用の効果性を確認した」と伝えられた。火星12の発射は2017年9月以来。射程距離は5000キロメートル程度あり、グアムが射程圏内に入るとされている。

一触即発にしても報復はされない北朝鮮の立ち回り方

北朝鮮がミサイル開発を続ける最大の理由は対米関係にある。

何も持たない小国である北朝鮮が米国と共存するためには、米国を牽制し続け、なおかつ戦争が勃発した場合に、米国が看過できないような大きなダメージを与えるだけの軍事力を常に保持しておかなければならない。

もちろん、核兵器や弾道ミサイルの性能や数を含め、すべての面で北朝鮮の軍事力は米国に遠く及ばない。しかし、北朝鮮は朝鮮戦争休戦以降、米国を相手に数々の「危機」をつくり出しては終息させてきた。例えば2003年1月、北朝鮮が核拡散防止条約からの脱退と国際原子力機関(IAEA)保障措置協定からの離脱を宣言。米朝枠組み合意が完全に崩壊した「第2次核危機」が挙げられる。

一触即発の事態を自ら意図的につくり出しながらも戦争には発展させないのが北朝鮮のやり口だ。そして米国は常に譲歩してきた。

筆者が朝鮮戦争が休戦となった1953年以降の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」と韓国の新聞をすべて調べたところ、北朝鮮軍は米軍偵察機の撃墜や米兵に対する攻撃を何度も仕掛け多くの米兵を死傷させているが、その場での銃撃戦を除き、米国が北朝鮮軍へ報復攻撃を行ったという事実はなかった。

北朝鮮の挑発的な行動に対して、米国は何度も武力行使を検討した。しかし、実行に移されることはなかった。日本と韓国が北朝鮮の“人質”になっているかぎり、米国は手を出すことができない。