中国軍と米軍の緩衝地帯としての役割
中国、ロシア、米国という大国の狭間にある北朝鮮が、外圧による体制崩壊の危機を回避し続けられている理由は、独自の抑止力の強化とともに中国軍と米軍との緩衝地帯という立場を受け入れて利用していることが大きい。
米朝関係のカギを握っているのは中国だ。近年の分かりやすい例としては、2018年の米朝首脳会談や南北首脳会談前後に金正恩が1年間で4度も訪中し、習近平主席と会見していることが挙げられる。これは、現在も北朝鮮が中国の強い影響下に置かれていることを意味する。
中国にとっては、金正恩が最高指導者である必要も、国号が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。前述した緩衝地帯として中国の安全保障に寄与する都合のいい国家であればいいのだ。中国と北朝鮮は友好国だが、中国にとって利用価値がある国家だから友好関係を結んでいるにすぎない。
北朝鮮への攻撃は中国との全面対決を意味する
だがそうであっても、米国が北朝鮮を攻撃することは、中国と対決することを意味してしまう。中朝友好協力相互援助条約には「自動介入条項」があるからだ。
同条約第二条には「両締約国は、共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」と定められている。
このため米国が北朝鮮への武力行使に踏み切ろうと考える場合、事前に中国から「どのような事態になっても介入しない」という確約を得ておく必要がある。さらに、金正恩政権後の新体制について合意しておくことも必要だろう。だがもちろん一筋縄ではいかないはずだ。
もしこの条件が達成できたとしても、さらに米国は日本政府と韓国政府に対して、北朝鮮の弾道ミサイルで攻撃を受けることを承認させなければならない。どちらの国もおよそ承服しかねる事柄であり、現実味は薄い。