ポールが抱いていた「日本のイメージ」は
——来日する前にイメージしていた日本とはどういったものでしたか?
【ポール】古風なイメージかな。映画やキモノ、サムライ、『七人の侍』、クロサワの映画。当時、イギリスで見た日本のイメージはそれくらいしかなかった。古い文化を持つ国だと想像していたんだ。あ、今でもそうだよ!
ぼくにとって日本が興味深いと思うひとつはそこなんだ。今の日本には近代的な文化がある。しかし、それは表面だけで、中身は古風だ。ぼくはいつも、日本人は古風だと思っている。
日本は過去30年の間に非常に近代的な国になり、コンピュータやビデオレコーダなんかを製造しているけれども中身は古風。日本は古典的な文化と近代的な文化が両立している。おもしろいミックスだ。
今の日本人と会話をしていて思うんだけど、メンタリティーはカントリーだよ。わかる? 東京の大都会で都会人たちと話をしていても、彼らはややもするとカントリーで、古典的なものの見方をしている。
——はあ、おかしいですね。(ポールの話についていけていない)
ポールそれはいいことだよ。ぼくは日本人がカントリーサイドの雰囲気を引きずっているのはいいことだと思う。基盤(土台)がしっかりしているってことだから。(日本の文化に基盤が)なかったら、困るでしょう。
タツのおかげでぼくらは好きなようにやれた
——当時、永島さんと会話をしたことを覚えていますか?
【ポール】たくさんの話をしたと思う。タツはいつもぼくらのそばにいたね。挨拶をしに顔を出してくれたし、みんなの調子をうかがったり。個人的にタツと話をするようになったのは、最近のことだ。ぼくがイギリスで暮らすようになってからだ。タツとは親しい友人としてレストランで食事をするんだ。
——1966年、永島さんは40歳、あなたは20歳でした。当時、彼はビートルズの曲は好きではなかったそうです。騒々しい音楽だと思っていた、と。
でも現在70歳の永島さんはビートルズの作品は美しいと言っています。なんといっても彼のオフィスの電話の保留音はビートルズの「レット・イット・ビー」なんですから。 彼が一番気に入っている曲です。
【ポール】タツが好きだったのはナット・キング・コールだろう。アメリカンポップスがスタンダード音楽だったんだ。今ではビートルズがスタンダード・ナンバーになっている。今の若者にとってビートルズはオールドファッションなんだ。ラップやテクノが流行の先端なんだよ。
タツはあの頃からいい友達だった。ぼくらは彼を気に入っていた。彼はいろいろな面でちょっと変わった日本人だったね。彼は背が高かった。ぼくらが出会ったなかで一番背の高い日本人だった。
彼はアメリカ人みたいだった。日系アメリカ人みたいで、ぼくらは楽だったよ、とくにしっかりと話し合いをしなければならないときにタツがいてくれて、思ったことを通訳してくれた。ぼくらは好きなようにやれたんだ。