※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
「髪切った?」相手を立てて、泳がす名人
『森田一義アワー 笑っていいとも!』。お昼の番組なのにサングラスをかけて出てきたタモリさんは、それだけで革命的でした。
タモリさんをモノマネする時のおなじみのフレーズ「髪切った?」。
テレフォンショッキングのゲストに時々言っていたセリフですが、髪を切ったことに気づいてくれるって単純に嬉しい。実は、特に質問のないゲストに言っていたセリフという説もありますが、あれを秀逸なコミュニケーション術と思う人はたくさんいますよね。
ここだけを切り取っても、タモリさんは「相手を立てる司会者」です。相手を立てて、泳がす。泳がし名人です。
僕は、1984年から3年近く、同番組内の『激突! 食べるマッチ』というコーナーを毎週木曜日に担当していたので、タモリさんとは週1ペースで顔を合わせていました。
基本マイペースなタモリさんですが、いつも早く来て、いろんな芸人さんのオーディションを見ていました。打ち合わせめいた打ち合わせは一切しないけど、スタッフや芸人さんと楽しそうに雑談をしていましたね。
そして、いざ番組がはじまると、相手を立てながら淡々とこなしていく。
気負いがないように見えるけど、僕は、芸人さんで気負わない人はいないと思うんです。タモリさんの中にだってメラメラとしたものはあるはずなんですよ。
だけど、それを種火ぐらいまでぐっと抑え込むのが上手だったんじゃないかなと思います。
32年も続いた長寿番組でしたけど、当初は「絶対に当たらない番組」と揶揄されていました。真っ黒いタレ目のサングラスをかけたタモリさんは、案の定、「暑苦しい」「昼に向かない」など散々な言われようでした
でも、こうした反発があるからドラマが生まれるんです。