第一印象で「嫌い」だったMCほど、病みつきになる
MCを生業にしている人は一度は何らかの反発を受けるものです。ちなみに僕も、「このおしゃべり野郎の古舘が!」と言われ続けました。
しかし、どんなに反発を受けても、繰り返し見ているうちに、見ている側に昼間にサングラスをするタモリさんへの耐性ができてくる。すると何かの拍子に「好き」にひっくり返る。反動のドラマというべきものが起こるんです。
これは昔の大ヒット曲が誕生するのによく似ています。
僕が知っている中でいえば、最後のロングラン大ヒット曲は、1985年に発売された小林旭さんの「♪北国の〜、旅の空〜」ではじまる『熱き心に』。老若男女、全世代が聴いたからこそ、3年もの間、ヒットし続けたんです。
前に友人の秋元康氏から、『熱き心に』の作詞をした阿久悠さんのこんな名言を教えてもらったことがあります。
「もうロングランになるようなヒット曲は生まれないだろう。なぜならば“街鳴り”がなくなったから」
これは未来を予見した名言です。
街が鳴る。
昔はいたるところで有線から音楽が流れていました。喫茶店で流れ、居酒屋で流れ、スナックで流れる。別に聴きたくもない曲を四六時中、聴くことになる。
でもこれ、CMの「15秒スポットの鉄則」と同じで、“ザイオンス効果”と言って、見たくないのに繰り返し見ているうちに、「面白いCMだね」なんて予定調和的に言い出す。そして、いい商品に思えてくる。だから、わざと繰り返し短い15秒スポットを流し続けるんです。
有線でかかった耳障りだったあの曲が、のちに好きになるのも同じで、それが『熱き心に』のようなロングラン大ヒットに繋がったわけです。
イヤホンやヘッドホンで個々が思い思いの曲を聴く現代で、ロングランヒットが誕生しないのは当然至極なんです。
第二のタモリさんがもう現れない理由
『笑っていいとも!』はテレビ版の街鳴りを起こしました。
お茶の間で流れ、ランチタイムの定食屋で流れ、電気屋の店頭で流れる。
別に観たいわけじゃないけど、お昼になるとタモリさんを観ている。ザイオンス効果が起きて、だんだんタモリさんのことが好きになってくる。
しかも、はじめに反発があった分、トランポリンに乗ったかのごとく高くプラスに転じます。
男女の関係でも同じようなことはありますよね。
第一印象は「嫌な男」「嫌な女」と思って反発しても、2回目以降、ちょっとしたことがきっかけで「意外に優しいし、いいやつだな」と思った途端に、相手の印象はマイナスから、リバウンド状態でバーンッと3倍ぐらいプラスになる。
バタフライナイフを隠し持っていてもおかしくなさそうに見える人相の悪い男が横断歩道でおばあさんの手を引いていたらどうですか? はじめ「悪そう」だと思った分、反動で、「めっちゃいいやつ」にガラリと評価が変わります。
サングラスをかけたタモリさんがお昼の人気司会者になれたのは、昼休みになるとみんなどこかで『笑っていいとも!』を目にする、そんな時代だったから。昼休み、個々がスマホを見ている今では、タモリさんの身に起きたようなことは、もう起きない、そんな気がします。