ビートたけしさんは「長い芸人人生で一番天才だと思った人は?」という質問に、「やっぱり、さんまだな」と答えたことがある。フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんは「番組の収録で5時間半ほど遅刻してきたことがある。そのときのさんまちゃんの言い訳もすごかった」という――。
※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
「見て見て、見てよ」と自分の業を客体化するMC
明石家さんまさんのことは、あえて「さんまちゃん」と呼ばせてもらいます。
お笑いビッグ3の中で、ビートたけしさんやタモリさんの司会は、招き猫みたいな存在で、そこにいてくれればそれでいいという感じですが、さんまちゃんは逆にずっとしゃべる芸風ですよね。
でも、だからといって、そのしゃべりで司会をしているわけでもなければ、進行をしているわけでもない。
『踊る!さんま御殿‼』の進行役は、「イーヒッヒッヒ」と笑いながら机を叩く差し棒の音。あのしぐさと棒の先にくっついた「さんま人形」が司会進行役であって、あれで一区切りついて句読点がつき、
「次。おまえはどうや」
と促しているわけです。それで「さんまちゃんと愉快な仲間たち」というトークショーを構成していく。
さんまちゃんは常に、「見て見て、見てよ」って、自分の業を客体化しています。
誰しも心の奥底にある「ウケたい」とか「目立ちたい」とか「自分中心でいたい」とかいう業を笑いに変換して、「俺はそういう人間なんや」って出すのがめちゃくちゃ上手いです。
あれをされたら、みんな「可愛い」って思っちゃうんですよ。でも、さんまちゃんじゃないとやっちゃダメ。
例えば僕がやると、「こいつ、いい歳してイタいな」って思われます。だけどさんまちゃんなら、「可愛い」ってなる。年齢は関係ないんですよ。