NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一は、どんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「500もの企業、600もの事業の設立や育成に関わった大人物だった。ただ、妻以外の女性たちとの『婦人ぐるい』もかなりのものだった」という――。
「美人のことを除けば少しもやましいことはない」
約500もの企業の設立や育成に関わり、大学や病院をはじめ600前後もの非営利事業にも携わったという渋沢栄一の業績は、教科書では案外軽く扱われている。
その偉業が広く理解されるうえで、2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の力は大きかった。
渋沢こそ、日本の実業界を創成させ、牽引した英雄であり、自分でもその業績を振り返って「俯仰天地に愧じることなし」(少しもやましいことがない)と公言していたという。
もっとも、いま引用した言葉には以下の留保がつけられていた。「明眸皓歯に関することを除いては」。「明眸皓歯」とは美人のことである。
英雄色を好むというが、その意味でも渋沢は英雄然としていた。
吉原に20両をつぎ込んだ青年時代
記録にある最初の女遊びは、最初の妻千代との間に長女の歌子が生まれた文久3(1863)年のこと。父の市郎右衛門から100両をもらって、いとこの渋沢喜作とともに京都に旅立ったが、このとき初めて吉原に行っている。
渋沢自身、「たちまち24、5両の金がなくなってしまった」と、のちに語っている。
京都では討幕の志が転じて一橋家に仕官し、八面六臂の活躍でたちまち重用されるが、その力の源は吉原にあったのかもしれない。
栄一は京都から妻の千代に宛てて、「一度も婦人ぐるい等も致さず、全く国の事のみ心配いたし居り申候」と書き送ったが、後妻の兼子との間に生まれた渋沢秀雄も著書『父 渋沢栄一』に、「なるほど『婦人ぐるい』と『女遊び』はカテゴリーが違うようだ」と書いているから、おもしろい。