「呼び屋について教えてください」
ビートルズを呼んだ男、永島達司に会った当時(1996年)、メールで取材の申し込みをするのは一般的ではなかった。電話もしくはファクスで申し込むか、手紙を書くのが主流だったのである。また、単行本は書き下ろしが当たり前だった。雑誌の数は限られていたし、連載ができるのは実力があって売れる作家だけだ。まだ新人だったわたしは時々、雑誌に寄稿しながら、書き下ろし本の取材を進めていくしかなかったのである。ブログもnoteも、むろん登場していない。
わたしはアポイントを取ろうと思って、インタビューに答えないことで知られる、伝説のプロモーター、永島達司に電話した。
要件は「呼び屋について教えてください。特に、神彰さんについて知りたいのです」だった。
あの頃、フリーランスのライターが電話をして「取材です」とか「取材したい」と言うと、たいてい、断られた。政治家、経営者、芸能人にとってフリーランスライターはスキャンダルを書く輩に過ぎない。だから、要件に入る前に「取材? お断りします」だったのである。これが新聞記者、テレビの記者だったら、断られることはなかった。今でもおそらく同じだろうと思うけれど、フリーランスで取材するには大きな壁を乗り越えないといけないのである。
「取材したい」ではなく「教えてください」と頼む
むろん、わたしも何度も断られた。そこで考えた。それは電話をして、「取材したい」ではなく、「教えてください」と切り出すことだった。
取材を申し込む有名人に向かっては次のように話をすることに変えた。
「わたしはあなたの出た記事をおそらくすべて読んでます。あなたを理解したいと思って話を聞きたいのです。そこで、この点について教えてくださいませんか」
わたしはあなたに物事を教えていただきたいのですという立場で丁寧に電話で話すことにした。
「教えてください」と言うようになってから、「わかった。教えてあげよう」とOKしてくれる人が多くなった。むろん、断られることのほうが多いのだが、事務所に属していない大物芸能人、創業経営者といった人たちは「あなたの申し込み方が面白かったから」とインタビューに出てくれるようになった。
永島さんに対して、わたしは「呼び屋について教えてください」と話しただけなのである。永島さんは「ああ、そう。わかった」と言って、日時を伝えてきた。