ソウルのアパート価格上昇率は約1年で24%に

それに加えて、より多くの就業機会などを求めて政治と経済の中心地であるソウルに人口が集中した影響も大きい。人口の流入によってソウルの住宅需要は増える。それは不動産価格の上昇を支える。

韓国は2012年に世宗(セジョン)市を発足させ政府機能を一部移転した。その目的の一つは、ソウルへの人口の流入を減らし、不動産価格の上昇を抑えることにあったと考えられる。それでもソウルの一極集中を是正することは難しい。

国民銀行のデータをもとに計算すると2021年年初から12月20日までのアパート価格上昇率は、セジョンの6%に対して、ソウルの中心地区は24%、ソウル全体でも16%だ。それだけソウルでの就業などを目指す人は多い。当面の間はソウルを中心に韓国の不動産価格は上昇基調を維持するだろう。不動産価格の高騰を食い止めるために、韓国銀行は追加の利上げを実施するだろう。

経済統計が示す以上に雇用・所得環境は厳しい

韓国では所得減少に直面する人が増えている。住宅価格が上昇する中で住む場所を確保するために、借り入れに頼らざるを得ない家計は増えている。

まず、所得の減少を確認する。韓国銀行によると、2021年7~9月期の国民総所得(GNI、その国の居住者が国内外で得た所得の総額)は前期比0.7%減だった(実質ベース、速報値)。その背景の一つには、韓国企業が海外から受け取る配当金の減少がある。それに加えて、文政権の経済政策の影響も大きいはずだ。文政権は、最低賃金引き上げなど労働組合に有利に働く経済政策を実施した。その結果、雇用の受け皿である中小企業の経営体力は低下して若年層を中心に雇用が失われた。

さらに、2021年7月以降は感染再拡大の深刻化によって動線が寸断され、飲食、宿泊、交通などサービス業の収益環境が悪化した。11月からは感染再拡大が収まらない中で移動制限が緩和され、雇用・所得環境への下押し圧力は一段と強まっている。経済統計が示す以上に、韓国の雇用・所得環境は厳しい状況にあると考えられる。