米シティグループが韓国リテール事業から撤退

足許、韓国から撤退する海外企業が増えている。カナダの大手銀行であるノヴァ・スコシア銀行が韓国からの撤退を決めた。また、米シティグループ(シティ)は韓国リテール事業の撤退によって最大15億ドル(約1695億円)が発生すると発表した。

韓国から脱出しているのは海外の企業だけではない。韓国の大手企業は海外への直接投資を増やしている。例えば、サムスン電子は米国に加えて、インドやベトナムなどのアジア新興国でスマートフォンなどの生産能力を引き上げている。韓国最大の企業である同社の海外事業の強化は、他の韓国企業や金融機関の海外進出を加速させる要因だ。

ニューデリーにあるインドサムスンの研究開発センタービル
写真=iStock.com/Mrinal Pal
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韓国を去る企業の増加の背景には、文政権の労働関連規制の強化、家計の債務リスクなど複合的な要因が影響している。短期間で韓国の労働市場の規制が緩和される展開は期待しづらい。新型コロナウイルスの変異株の出現など韓国経済の不確定要素も増えている。

中長期的な目線で考えると韓国では人口が減少し経済が縮小均衡に向かうだろう。より高い成長期待や従順な労働力を求めて韓国から撤退する海外の企業や、拠点を海外に移す韓国の企業は一段と増える展開が予想される。

シティ撤退の一因となった「増え続ける家計の債務残高」

2019年以降、韓国の対内直接投資は減少傾向だ。足許では、外資系の金融機関による韓国撤退が目立つ。その一方で、韓国企業による対外直接投資はコロナ禍の影響による落ち込みはあるものの、増勢を維持している。サムスン電子をはじめ財閥系大手企業では、先端分野を中心に海外直接投資を増やす方針が鮮明だ。

外資系の金融機関が撤退する背景には、韓国の硬直的な労働市場や金融規制、韓国の家計部門の債務リスクがある。その中でも、家計の債務問題の影響は大きい。韓国では所得の減少によって借り入れに頼らざるを得ない人が増え、家計の債務残高はGDPの規模を上回った。その状況は持続可能ではない。徐々に家計部門の不良債権は増えるだろう。不良債権が増える中で景気減速が鮮明となれば、韓国の金融システム不安が発生する可能性は排除できない。

そうした懸念は、米シティの韓国撤退から確認できる。2021年4月にシティはグローバルな個人金融事業のリストラの一環として韓国事業の撤退を発表した。シティは韓国事業の売却を目指したが買い手が見つからず、最終的に韓国事業を清算し、費用を計上する。