りそな総合研究所理事長 川田 憲治 かわだ・けんじ●1950年生まれ。72年、早稲田大学卒業後、埼玉銀行に入行。戦略事業部長などを経て、2003年、りそなホールディングス社長に就任。09年6月より現職を務める。

2003年5月、前年度の決算で自己資本不足が確実になったりそなグループが、政府に1兆9600億円の公的資金注入の申請をしたいわゆる「りそなショック」に経済界は大きな衝撃を受けた。その渦中にりそなホールディングスの社長に就任し、りそな再建の重責を担うことになったのが、現在りそな総合研究所の理事長の川田憲治さんである。

「何の心の準備もないまま社長に就任してしまいました。経営者としての立ち居振る舞いをどうすべきか。きちっとした行動哲理を持った経営者になるためにはどうしたらよいのか、ずいぶん迷いました」という川田さんがそのとき手にしたのが学生時代に読んだ後、書棚に仕舞い込んであった新渡戸稲造の『武士道』だ。

90年代に入り「フリー」「フェア」「グローバル」などの言葉に代表される新自由主義が急速に台頭し、金融市場でもさまざまな規制緩和が行われた。確かにそのこと自体は正しいことではあるが、野放図の自由はありえない。何かしらの秩序、ルールに基づいてお互いに競争していく必要がある。そのルールの下での行動規範となるものが、各国固有の生き様ともいうべきアイデンティティであると川田さんは考えている。

英文で新渡戸が著した『武士道』の原題は『BUSHIDO THE SOUL OF JAPAN』。つまり「日本人の心」。川田さんは武士道の基本は儒教思想にあると捉える。そして、1100年前の菅原道真の「和魂漢才」に始まり、明治維新の「和魂洋才」を経て、日本近代資本主義の生みの親である渋沢栄一によって「士魂商才」へと昇華されながら受け継がれてきた儒教思想を、日本人の心、具体的な立ち居振る舞いとして裏付けたものが新渡戸の『武士道』であると位置付けている。