倉庫型が抱える2つの問題点

またこの業態では、ロス率の上昇と品揃えの不足も問題だ。この2つには相関関係がある。

小さな倉庫を設置しても、フーマー本来のフルラインナップを置くことはできない。付近の顧客の購買履歴など得意のビッグデータからある程度品筋を絞り込むことになるが、絞り込みすぎるとそもそものECとしての利便性が減少する上に、売れ筋ばかりで他社との差も少なくなる。

したがって、多少の余裕を持って在庫を置く必要があるが、生鮮食品は足が速く、売り切れずに廃棄せざるを得ない比率が上がってしまう。店舗があれば仕事帰りなどで翌日の食材を求める客が遅い時間でも訪れるため、夕食時間帯前に集中するEC注文で売り逃した食材を値下げして売り切ることもできるが、そうした在庫の有効利用も難しい。

制約条件の中でそうしたバランスを取ろうと選ばれたのが、その名のとおり小型版フーマーである「mini」である。

配送可能範囲は1.5kmと通常の半分でさらに狭く、取り扱う商品SKU(*3)も2,800と約半分、店舗面積は4分の1以下。在庫の問題を完全に解決することはできないが、「mini」としての店舗機能を持たせることで、最低限の収益能力を担保することを狙っていると言える。

(*3)「Stock Keeping Unit」の略。在庫管理上の最小の品目数を数える単位を表す。たとえば同じ名前の商品であっても5個入りと10個入りでは違うSKUとみなす。

倉庫型よりも店舗型が業績を伸ばしている

フーマーCEOの侯毅は、2019年時点で2020年の目標として、従来型の「盒馬鮮生」100店舗とともに同じく100の「mini」型店舗を新規に開設するとした。大型店だけでなく、物流倉庫としての機能を持たせた「mini」をその周辺に増やしていくことで、配送可能範囲を増やしていくことを狙っている。

藤井直毅『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)
藤井直毅『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)

競合には無店舗である倉庫型やプラットフォーム型を採用している会社もあるが、あまり順調とは言えない。倉庫型は先ほどのロス率とラインナップ差別化のジレンマを解消しづらい。

また、プラットフォーム型はウーバーイーツのような仕組みで地元の八百屋やスーパーなどと提携してそこから届けるが、それぞれの店が仕入れたものを売るので実際に届く商品は時によって違い、品質を担保できない。

現状で業界1位の「多点ドゥオディエン」も既存スーパーを拠点として面を広げており、2位がフーマーだということを考えても、軍配は店舗型に上がるのではないだろうか。

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