フーマーは「ECでも売るスーパーマーケット」ではない

あえて重ねて強調したいが、フーマーはあくまで「生鮮『EC』」であり、よく言われる「OMO『スーパーマーケット』」ではない。この主従関係を間違えてフーマーを「ECでも売るスーパー」などと考えてしまうと、理解がかえって難しくなる。様々な変化はあるが、フーマーの本業はあくまでECだ。

創業とともに開店したスーパーは、その機能の一部を担う存在にすぎず、そこでの売り上げも最優先課題ではない。では、なぜわざわざコストをかけて実店舗を運営するのだろうか?

それはまず、「実際の取扱商品を見せ、信頼してもらう=体験の場」として必要だからだ。利用者を拡大する上で生鮮ECの大きな課題が、実際に目で見て選べないことだ。工業製品であれば、同じ型番のものはまったく同じなので、一度買ったことがあるものであれば、同じものを注文すれば同じものが届く。

しかし、農産物は前述のように形や大きさ、質や鮮度がバラバラだ。実店舗であれば自分で触ってみるなどして、その中からある程度選ぶこともできるが、ECだと完全に店側任せになってしまう。

逆にECの画面上では鮮度などをアピールしたくても難しい。これまで食の安全に関わる事件が多く起きている中国では、レストランなどでも誤魔化しがないことを示すために、厨房にカメラをつけて客席から見えるようにしたり、オープンキッチンを採用したりしている店が多い。

フーマーの果物売り場
筆者撮影
フーマーの果物売り場

あえて人通りが多い立地には出店しない

同じようにフーマーでも実際に注文を受けた品物をピッキングしている様子を見せることによって、信頼を得ようとしていると考えることができる。

また、こうした「不正がないことの証明」のためだけでなく、同時にエビやカニなどの高級感ある海鮮の生簀販売、現場調理や店面積の3分の1を占めることもあるイートインコーナーの設置は、他の普通の(単にできるだけ速く用事を済ませるだけに訪れる)スーパーとの差別化を狙ったものでもあるだろう。

店内をピッキングスタッフが動き回り、これ見よがしに店内に張り巡らされたベルトコンベヤで運んでいく様子などを「見せる」演出は、リテール+エンタテインメントで「リテールテインメント」と呼ばれることもある。

フーマーでは、事業立ち上げ時からオンラインの売上比率をオフラインよりも高めることを方針として掲げていた。実際に2020年時点で売り上げの7割はオンライン経由となっている。

フーマーの実店舗は繁華街路面の視認性が高い物件や、できたばかりで人がたくさん集まるような高級ショッピングモールに入居していることは少ない。むしろ大通りを1本奥に入ったところや、少しくたびれたローカル感の強いモールに入っていることが多い。

通常出店基準になることが多い店前通行量よりも家賃コストを重視していることがわかる。生鮮ECは繰り返し買ってもらうことが目標なので、大通りなど「一見さん」が多い位置に出店する必要がないのだろう。