なぜ生鮮ECが店舗を増やし続けているのか

この標準店舗は海鮮の生簀いけすやイートインなど、ひととおりの機能を備えている。スーパーとしては大面積だが、そもそも立ち上げ当初はフーマーという誰も知らない生鮮ECブランドの特徴を伝える役割も担っているので、すべての機能を備えている店が必要になる。

同時に、拠点数がまだ少ないフーマーにとって、各店舗で配送や加工など一定のバックヤード機能を持つ必要があり、大規模店のほうが高効率だったという側面もあるはずだ。しかし、開業から時間が経って一定の知名度を得たこと、恐らく好条件で出店できる場所への進出が一巡し、より小規模な代わりに立地ごとの細かいニーズに合わせた業態を開発する必要性に迫られたことなどから、9つの新業態での出店を始めた。

「菜市」は伝統的な生鮮市場、「F2」「Pick’nGo(2020年に盒小馬フーシャオマーに名称変更)」はコンビニを競合とする小規模業態、「X会員店」はコストコのようなまとめ買いを狙った業態で、生活の中での様々な利用シーンに応じて品揃えが違う。

同じブランドの下にこうしたバリエーションを持たせることによって、すでに会員になった利用者の総合的な利用頻度を上げるという目的だ。「スーパーマーケットではなく、生鮮ECである」のに、「なぜ、新業態を開発してまで店舗を増やし続けるのか」という疑問を持たれるかもしれない。

先ほど述べたように、最も大きい理由は「信頼獲得のデモンストレーションの場」だが、もう1つECとしての「配送拠点の確保」という意味合いも大きい。

倉庫を増やすだけでは高収益は得られない

生鮮ECの要は配送網の構築で、コストとバランスがとれる範囲内でできるだけ高密度で倉庫と配送スタッフを配置することが利便性に直結し、勝敗を分ける。大型店だけでは一定以上に密度を上げることはできず、こうした小規模店の新業態も配送拠点網の密度を上げるための措置でもある。

単純に「倉庫を増やせばいいのでは?」と思われるかもしれない。実際にこの新業態の中には「小站」という、店舗機能がない倉庫タイプもあった。小站は前線倉庫と呼ばれる方式を採用している(図表1中の自宅配送の「前線倉庫型」)。

しかし、店舗機能がないということは、その家賃を自分でまかなう営業能力もなく、フーマー本来の二毛作による高収益を得ることもできないことになる。