中国でヒット商品のトレンドに変化が起きている。かつて人気だったのは「強くてデカい」だったが、それが「エモい」に変わってきたのだ。『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)を書いた藤井直毅さんに、中国ルポライターの安田峰俊さんが聞いた——。
2020年10月27日、中国山東国際りんご祭で、Eコマースキャスターがネットワークライブ中継の形でりんごを紹介する。
写真=CFoto/時事通信フォト
2020年10月27日、中国山東国際りんご祭で、Eコマースキャスターがネットワークライブ中継の形でりんごを紹介する。

「デカくて強い」から「エモいもの」にトレンドが変化

——書名にもなった、中国の「新消費」現象とは、簡単に言ってしまえば「エモさ」(情緒性)を理由にした消費……ということになるでしょうか。これは以前と比べて何が違うのですか。

【藤井】そうですね。まず以前の話ですと、たとえば自動車なら、デカくて強いのがいい車。本当は衝突時にボディがちゃんと衝撃を吸収してへこんだほうが安全で、コンパクトな車のほうが燃費がよくて環境に優しかったとしても、とにかくデカくて強いのがいい。面子めんつが立つものを欲しがる「面子消費」というやつです。

——ああ、わかる気がします。20年ほど前は、携帯電話でもとにかくエラそうに見えるデカい携帯「大哥大」(=ビッグ兄貴)がカッコいいという価値観がありましたね。

【藤井】はい。好みの方向が単一で、みんなが思う「いいもの」が一致していたんです。なので、全員がその方向に飛びついた。しかし、それが徐々に変わって、自分がいいと思ったものこそが「いいもの」という価値観に変わってきた。

——「いいもの」と思う動機には、もちろん価格や便利さ、ブランドの好き嫌いなどもあると思います。ただ、そこに「エモさ」、感情が動かされるかという要素が強く関係してきた。

【藤井】そうです。たとえば広告にしても、最近は「この車ができるまでにはこんなことが」といったメイキングストーリーや、「家族の暮らしがこう変わって幸せ」というイメージをアピールする方向性も強くなってきた。

——以前はそうでもなかったんですか?

【藤井】もともと中国の広告ってアメリカと似たところがあって、「価格がいくらだから得だ」「このエアコンを使うと一瞬で気温が○度下がる」みたいな、即物的なアピール(理性訴求)をする傾向が強かったのですが、ちょっと変わってきた感じはあります。