10億人のネットユーザーの反応を見てサービスを改善
——2010年代後半から顕著になったのは、リープフロッグ現象によって中国の「先進的」なサービスやライフスタイルが、日本に逆流する動きです。中高生がみんな中国の動画アプリ(TikTok)を見て、関西圏では多くの人が中国のタクシー配車アプリ(Didi)やフードデリバリー(Didi Food)を使って……みたいな状況は、10年前は考えられませんでした。
【藤井】そうですね。中国について、かつては「遅れているよくわからない国」だったのか、最近は「進んだ部分がよくわからない国」になってきた感があります。
——これらのサービスが生まれる土壌としての、中国の強みはどこにあるんでしょうか。
【藤井】ユーザーの反応をみて改善することがやりやすい点が最大の強みかもしれません。中国は14億人の人口がいて、ネットユーザーも10億人以上。つまり、あるアプリをリリースしてから、改善のためのサンプルが膨大にある環境なんです。
もちろん英語のサービスもユーザーは多いのですが、こちらはユーザーの国や文化背景が違う。いっぽう中国の場合は、まがりなりにもひとつの同じ国の人たちなので、同環境の下での反応を測定しやすい。なので、サービスが短期間でよいものになる。これが海外に出ることで、より研ぎ澄まされていくところがあるかもしれません。
人材の平均的なレベルが高いことが日本の強み
——コロナ禍が終われば、日本はそんな中国から再び儲けていかなくてはいけません。現在の日本は中国に対して、どういう部分で優位性を持てると思いますか。
【藤井】まずは人材でしょう。私が中国にかかわりはじめた2012年ごろからすでにあった流れですが、テレビ番組や映画などのクリエイターを中国に呼んでコンテンツを作ってもらうという流れがありました。これは今後もあると思います。むしろ増えるかもしれません。
——中国にも人材はいると思いますが、あえて日本から呼ぶ。
【藤井】中国は激しい競争に勝ち残った一人の「すごい人」を盛り立てるのは上手なのですが、「普通の人」のレベルを全体的に底上げするのは下手なんです。凡才に知識を伝承して秀才に育てるよりも、完成された天才に頼った市場運営がなされる。良くも悪くも。
——わかる気がします。ちなみに私は恐竜が好きなんですが、中国の恐竜研究って世界レベルの研究者がいる一方で、裾野がめちゃくちゃ狭いんです。日本であれば、学者のタマゴみたいな「そこそこ知識を身につけた人材」という2軍層がすごく厚いのですが、中国は天才と完全な一般人しかいない印象です。
【藤井】これはある意味で、日本が優位に立てる部分があります。中国から見れば、日本の人材には突出した人はいないが、平均的なレベルが高くてハズレがない。人材を使うときの出費に対する最低限のリターンが必ず計算できるという安心感がある。こういう意味で、中国にとって日本はまだまだ値打ちが高いところだと思います。