ゆるい感情が購買につながっていく

——本書『新消費』で特に紹介されているのが、近年の中国におけるライブコマース(動画のライブ配信による商品紹介と販売)の隆盛です。こちらも「エモさ」重視の風潮と関係があるとか?

【藤井】そう思います。実はライブコマースって、普通のEC(電子商取引。日本ではAmazonや楽天などが該当)とは、効率性の面ではある意味で真逆なのですが、なぜか中国では強いんです。

中国のタオバオ(アリババが提供する中国の最大手ECサービス)も、日本でもおなじみのAmazonも、ECって商品がすごく整理されていて、検索によって最も効率的なものが一瞬で表示され、それを最小のクリック数で買えるイメージがあるじゃないですか。しかしライブコマースの場合……。

——インフルエンサーが動画のなかで喋りまくっているわけですから、化粧品ひとつ買うのにもすごく時間がかかりますよね。他の商品や業者との比較も面倒ですし。

【藤井】そうなんです。従来のECのKPI(重要業績評価指標)でいえば、こんなに時間をかけて買わせるなんてありえない(笑)。でも、そうした効率の競争とは別の「エモさ」がライブコマースのキーです。なんだか動画がおもしろい、次も見ようかな、この人が売るなら買うか、みたいな、ゆるい感情が購買につながっていく。

中国のオンラインショッピングサイト
写真=iStock.com/Yongyuan Dai
※写真はイメージです

8億円のロケットを販売するインフルエンサーも

——なるほど。一昔前までのアジア各地の市場では啖呵売たんかばいがお馴染みで、売り手の面白さや親しみやすさから買うという購買動機が存在した。ある意味、それが変形してサイバー化したのが、中国のライブコマースなのかもしれません。

【藤井】売り物のおもしろさが加わるケースもあります。本書でも紹介した、中国の「ライブコマースの女王」薇婭(viya)が、キャンペーンの形でロケットを4500万元(約8億円)で売ったことがあります。もちろん高価なわけですが、超大幅割引(笑)。

——それは見る側にとってはエンタメですよね。「どこの金持ちがこの商品に手を上げるのか」をワクワクしながら見るという娯楽、1990年代の日本のTV番組「ハンマープライス」みたいです。当然、みんなの前であえて高額品を買ってみせる人は、空気が読める粋な金持ちというわけで、賞賛の対象になる。

【藤井】実際のモノの売り上げ以上に、話題を作ることでの波及効果は大きいでしょう。もっとも、ライブコマースは普通の商品を売っていることのほうが多いわけで、普段から配信内容がそこまでおもしろいわけではないのは注意が必要です。無編集のライブで喋っているだけですから、映像の演出もないですし。

——普段の配信は「そこまでおもしろいわけでもない」。なのに、なぜ盛んになるのでしょうか。

【藤井】ダラダラ、無目的に見られるからかもしれません。ライブコマースはコロナ禍で大きく伸びたそうなんですよ。ずっとステイホームで、ドラマや映画を見るのも、ある程度は集中して見なくていはいけないので飽きてくる。そこでライブコマースが見られるようになった。