5年間で300店舗以上をオープンしネットワークを拡大

「3km以内なら最速30分で配送(*1)」を旗印に、2016年に最初の店を上海にオープンさせてから5年ですでに321店舗ものネットワークを持つに至ったフーマーは、「生鮮食品のECである」と同時に「リアルのスーパーマーケットでもある」という2つの顔を持つ。

アリババ全体から見ても期待されている新事業で、2019年にはフーマー単独で「事業群」の1つに昇格している。通常いくつかのサービスブランドをまとめて1つの事業群とされるので、これは異例と言っていい。

ちなみに、フーマー事業群のトップは、戴珊ダイシャンという女性で、教師時代のジャック・マーの生徒だ。マーが教師の職を辞して起業するときに誘った「十八羅漢らかん」と呼ばれる18人の共同創業者の1人である。

「EC」の名がついているものの、生鮮ECは一般的なECとは大きく異なる。生鮮食品は運搬・保管などに温度管理が必須で賞味期限も短い。よって顧客への配送の際、通常の雑貨や書籍を売るECとは違った物流設備が必要になり、既存の配送網や倉庫などのインフラをそのまま使うことができない場合も多い。

また、同じ品種のリンゴやミカンでも、それぞれの色や形、大きさや重さなどが異なる上、豊作不作の波もあり、書籍などと違い商品自体も標準化(サイズや規格の統一)管理ができない点で、独特かつ複雑だ。そもそもその源を辿ると、農業や畜産業といった生産自体、他の先進国と比べて工業化・規格化されていない現状もある。

(*1)宅配ピザからの連想か、「30分『以内』」と誤解されることが多いが、「最速」が正しい。実体験としてはピーク時でなければ45分前後、混んでいると1時間前後で届くことが多かった。

配送用の倉庫を店舗化することで収益性を向上させる

前述のフーマー部門の責任者・戴珊、その直下の実務トップである侯毅ホウイー(*2) が、ともにアリババの農業DX部門のトップを兼務し、直営農場の整備などにあたっているのは、おそらくこのような関連性によるのだろう。しかしそうした困難の一方、食品は必需品であり、なくても生きるのに困らない娯楽的消費とは違い、定期的かつ安定的だ。

また、利用者の半数以上が週に2回以上利用する頻度と高客単価(2018年時点と少し古いが、フーマーの場合オンラインで75元、店舗で113元、月平均計575元というデータもある)は魅力でもある。

また違いが大きいとはいっても、決済や在庫管理などには一般的なECと共通の部分も多い。大きな投資も必要だがリターンの見込みも大きく、資本力とECノウハウがあるアリババなら他社に比べて勝ちやすいという判断で進出したと考えることができる。

生鮮ECにはいくつかのかたちがあり、フーマーは「配送+店舗型」に該当する。

顧客のところまで鮮度を保ったまま届けなければならない生鮮ECでは、配送拠点の効率的な配置が重要になる。このタイプは配送用の倉庫をそのままスーパーとして来店客にも開放することで坪あたりの収益を向上させ、一定規模の面積と保温設備など、なにかと投資が必要な倉庫のコストをまかなっている。

(*2)ちなみにこの侯毅は、アリババのライバルである京東の物流責任者であったが、フーマープロジェクト立ち上げのためにヘッドハントされ、移籍している。