「○○しないようにしましょう」では人は動かせない
「いやいや、そんなことはありません。ただし、ふんぞり返っていてはダメです。自分が率先して整理整頓に努めるのです」
「ほう」
「そうしていると、きちんと入れてくれる人が現れます。そしてきちんと入れてくれた人には、必ず礼を言うようにしています。そうしたことを続けていれば、今ではご覧のとおり立派なもんです」
「なるほど、率先垂範。山本五十六の『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』という、あれですね」
「入れちゃ出され、出されちゃ入れ……まるでイタチごっこでした。ただし、ここまでくるのに半年かかりました。なんだってそうですよ。『○○しないようにしましょう』と言っただけでは、まして貼り紙だけでは人は動いてくれないのです」
「いいお話ですねぇ。私も使わせていただくことにしますよ」
と、まあ、アタマでは理解したものの、実際にそのようなシーンに出くわすと、ついカラダが反応して不埒な感情が顔に出てしまう。駐輪禁止場所に停めている住民を見かけたりすると、思わずイラッとする。
持って生まれた性格が歪んでいるのかもしれないが、あの管理員さんのようにふっくらとした笑みが湧くまではまだまだ時間がかかりそうである。
ルールや決めごとを押し通すだけでは解決しない
ある日、マンション住民の河合さんが50ccバイクにまたがったまま、エレベーターに乗るところを目撃。思わず声を出しかけたことがある。そのとき、「なんや、なんか文句あんのか」という表情でにらまれ、つい言いそびれてしまった。
マンションによっては、上階へ自転車やバイクを持ってあがってもよいというところもある。が、置き場所は言うまでもなく、みんなの生活路である共用廊下だ。消防署によれば、避難の邪魔になるので、ここに私物の類いは一切置いてはいけないことになっている。
ところが、いったんこのようなクセがつくと、住民はなかなか言うことを聞いてくれない。そこで、ずるずるとやっているうちに、いつのまにか公認ということになってしまうのだ。やっぱり、人間ラクをしたくて生きている。
上階に自転車やバイクを持ってあがる住民にも、それなりの言い分があって、「100万円もする高級自転車が盗まれでもしたらどうする」とか、「シートをカッターナイフで切られたら弁償してくれるのか」とか、いろいろなことを言いだす。で、くだんの河合さんの行状をどうしたものかと、かねてからそうした不法駐輪に不平をこぼしていた理事長に相談した。
「ああ、放っとけばいいんですよ」
「え、いいんですか。上階への持ち込みは禁止するんじゃなかったんですか」
「いいですよ。どうせお歳なんだから。もう1~2年の辛抱」
基本的に、管理会社は管理組合から「お給料」をもらっている。その仕事の中身を決めるのは、あくまでも管理組合なのだ。ルールや決めごとを押し通すだけが正義ではない。江戸時代のだれかさんではないが、「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」ということなのだろう。