広告の「つかみの部分」に過ぎなかった
ユーザベース『AlphaDrive/NewsPicksの広告掲載について』(2021年10月5日)より引用
「広告掲載→SNSで炎上→掲載中止→謝罪」という一連の流れ自体には、特に真新しさはない。SNSでひたすら繰り返され、令和になって加速度的にその件数を増やしてきた「キャンセル」の典型例だ。
しかしながら、下のツイートに載せられた動画を見てほしい。これを見ると、「今日の仕事は、楽しみですか。」という言葉が表示されるのは広告全体の「つかみ」の部分に過ぎず、直後には画面がスクロールして「仕事を楽しいと思える人を増やしたい(そのお手伝いをしたい)」というメッセージの核心部に続く内容だったことは付言しておきたい。広告の全体像を踏まえてもなお「不適切」かどうかは大いに再考するべきだろう。全体像を見て「勇み足だった」と反省する人がいるとしたら、私はそうした人をたたえたい。
品川駅の広告が実際にはどのようなものだったのか参考のために上げておきます。
— keijitakeda (@keijitakeda) October 6, 2021
当該部分だけを撮影していますが天気予報やニュースの合間に他の企業の広告なども表示され、この表示を見るには数分間待たなければなりませんでした。 pic.twitter.com/6N2Fw8k30R
転職の広告もマッチングアプリの広告も「不快」になりうる
いずれにしても、この程度の《刺激性》のある表記で、傷ついたや取り下げろといった非難の嵐が起きることも、またそれにすぐさま応じてしまう企業側の弱腰も、両者が二人三脚でこの社会の「息苦しさ」「閉塞感」を加速させていることは、ここではっきりと指摘しておかなければならないだろう。
ありとあらゆる人にとって「侵襲的でない」「不快感のない」コンテンツなど存在しえない。自分にとって快適な表現は、だれかにとっては不快なのである。その逆もしかりだ。いくら配慮を重ねたところで、全員が笑顔になれる「満額回答」など存在しない。
たとえば「仕事がつらくて、死を考えるくらいに追い詰められている人」からすれば、今回の広告にかぎらずキャリアをポジティブに考える転職事業会社の広告はすべて「加害的」であるだろう。耐えがたいほどの孤独感に苦しんでいる人からすれば、マッチングアプリの広告はすべて「暴力的」な表現に見える。
お金がない人からすれば、自動車や旅行の広告は自分を軽蔑されている気分になるだろうし、酒に酔った暴漢に殴られた経験のある人からすれば、アルコール飲料の広告も許しがたい加害煽動に見える。なにかを表現する際には、だれかの抑圧感や被害意識にいちいち配慮して、これらを刺激しないようにしなければならないのであれば、結局はなんの表現も世に出すことはできなくなってしまう。