大金を手にしても、愛する人と結ばれても、人間の喜びや幸せは持続しない。サイエンスライターの鈴木祐さんは「ブッダは『人生は苦である』と説いた。それを証明するように、人間の脳には、嫌なことはあとまで残り、良いことはすぐに忘れるという習性があることがわかってきた」という――。
※本稿は、鈴木祐『無(最高の状態)』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
ブッダ「生きづらさは人間のデフォルト設定だ」
「人生は苦である」
仏教の開祖であるゴータマ・ブッダは、2500年前にそう言い切りました。この世のすべては苦しい体験ばかりであり、最後にはみな命を落として塵に帰る。これこそが人生の真実なのだ、という考え方です。
思わず抵抗を覚えた人は多いでしょう。
私の人生は最高に幸せだとまでは言えないが、日々の暮らしが苦痛だけに彩られているわけでもない――。
そう考えるほうが普通のはずです。
が、ブッダはあなたの人生をみだりに不幸扱いしたわけではありません。古代インドにおける「苦(dukkha)」とは、虚しさ、不快さ、思い通りにいかないことへの苛立ちなどを含む幅広い概念であり、人生の絶望や苦悩のように大げさな状態だけを意味しないからです。
どんなに好きな仕事をしていても、その過程で地味な作業に退屈感を抱き、計画通りに物事が進まず怒りを感じることは誰にでもあるでしょう。いつもの暮らしのなかで物足りなさを感じたり、ふと過去の嫌な思い出にとらわれて悲しみを覚えたこともあるでしょう。
夏目漱石の言葉にもあるように、「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」ものです。
人生を不満や不快の連続だと捉えるぐらいなら、さほど実感から外れた考え方でもないでしょう。簡単に言えば、ブッダは「生きづらさは人間のデフォルト設定だ」と説いたわけです。