「尊敬できる上司が人種差別的なコメントをした」
この考え方は、科学的な研究でも裏づけられ始めています。
「ネガティビティバイアス」をご存じでしょうか? 人間はポジティブな情報よりもネガティブな情報の影響を受けやすく、マイナスなことほど記憶に残るという心理を表す用語です(※1)。
たとえば、あなたが会社から100万円のボーナスをもらった日に、愛車のエンジンが壊れて100万円の修理代がかかったとしましょう。このとき、1カ月後のあなたはどちらの出来事を強く思い出すでしょうか?
多くの人は、このような場面ではボーナスの喜びを忘れ、代わり100万の修理代に頭を悩ませ続けます。私たちの脳は、ネガティブな事件ほど強く記憶するようにできているからです。
・好きだった有名人がスキャンダルを起こし、急に見るのも嫌になった
・尊敬できる上司が人種差別的なコメントをしたため、距離を置くようになった
・プレゼンはうまくいったが、たった1カ所の間違いが頭を離れない
こういったケースは誰にでもあるでしょう。メディアが悲観的なニュースばかり流すのも、不安を煽るフェイクニュースほど拡散されやすいのも、私たちの脳がネガティブな情報に意識を向けやすいのが原因です。
生後3カ月の乳児も生まれつきネガティブ
ネガティブの強さは、状況によってポジティブの3~20倍の範囲で推移します。
「出かける日に雨が降った」や「転んでケガをした」ぐらいの日常的な不幸なら、ネガティブの強度はポジティブのおよそ3倍。
友人や恋人とのケンカのように対人関係がからむ問題なら、ネガティブの強度は5~6倍。虐待や事故といったトラウマ的な出来事の場合、ネガティブの強度は20倍以上まで跳ね上がります(※2)。
さらにある実験では、三角形や四角形のシンプルなキャラが登場する数秒のアニメーションを乳児に見せたところ、興味深い反応が得られました。
乳児たちは互いを助け合うキャラには約13秒も視線を送ったのに対し、他をいじめるキャラには不快そうな表情を浮かべ、6秒しか見つめなかったのです(※3)。
生後3カ月の乳児ですら嫌なキャラを避けようとする事実は、人類にとってネガティビティバイアスが普遍的である事実を示しています。
ネガティブな刺激により強く反応してしまうのは、決してあなたの性格が偏っているからではなく、すべての人類に備わった共通のシステムなのです。