人類は“苦”から逃れられないのか

似た観察は、芥川龍之介の随筆『侏儒の言葉』にも見られます。

「鳥は現在にのみ生きるものである。しかし我々人間は過去や未来にも生きなければならぬ。鳥は幸いにこの苦痛を知らぬ、いや、鳥に限ったことではない。三世の苦痛を知るものは、我々人間のあるばかりである」

現在だけを生きる動物に、過去と未来を思う苦しみはあり得ません。したがって動物たちが“二の矢”を継ぐことはなく、広い時間感覚を持つ人間だけが苦しみをこじらせてしまう。芥川はそう考えました。

が、そうは言っても、「過去や未来に悩まずにいまを生きよ」と言われたところで、すぐに実践できる人はいません。人間が生まれつきネガティブなのも、動物とは異なる時間感覚を持つのも、進化のプロセスで遺伝子に組み込まれた基本システムの働きによるものだからです。

「いまを生きる」ことが正論と頭ではわかっていても、ついつい来し方を悔やみ、行く先を憂いてしまうのが人間でしょう。

遺伝子はコンピューターのように気軽にアップデートできず、人類に「苦」をもたらすシステムはかなり強固なものです。そう考えると、やはり私たちが“一の矢”だけで苦しみを終えるのは不可能なのでしょうか?

※1.Hayashi M, Sakuraba Y, Watanabe S, Kaneko A, Matsuzawa T(2013)Behavioral recovery from tetraparesis in a captive chimpanzee Primates , Volume 54, Issue 3, pp 237-243. https://dx.doi.org/10.1007/s10329-013-0358-2
※2. Gregory Berns (2017)What It's Like to Be a Dog: And Other Adventures in Animal Neuroscience. Basic Books. ISBN-13 9781541672994
※3. Marc Bekoff.(2013)Why Dogs Hump and Bees Get Depressed: The Fascinating Science of Animal Intelligence, Emotions, Friendship, and Conservation.New World Library. ISBN-10 : 1608682196
※4. Kovács LN, Takacs ZK, Tóth Z, Simon E, Schmelowszky Á, Kökönyei G. Rumination in major depressive and bipolar disorder-a meta-analysis. J Affect Disord. 2020 Nov 1;276:1131-1141. doi: 10.1016/j.jad.2020.07.131. Epub 2020 Jul 31. PMID: 32777651.
※5. Skorka-Brown J, Andrade J, May J. Playing 'Tetris' reduces the strength, frequency and vividness of naturally occurring cravings. Appetite. 2014 May;76:161-5. doi: 10.1016/j.appet.2014.01.073. Epub 2014 Feb 5. PMID: 24508486.

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