同じ悩みが脳内で反復されることのダメージ

ところが、ここで多くの人は“二の矢”を放ちます。

たとえば、あなたがチンパンジーのレオと同じように半身不随になったとしましょう。意識ははっきりしているのに首から下は動かせず、寝たきりのまま介護を受けるしかありません。

このケースにおける“一の矢”は、もちろん半身不随による苦痛そのものです。身体が満足に動かせない最初の苦しみだけは、どうしても動かせません。

そして、あなたは続けて思うでしょう。

なぜ自分だけがこんな目に遭うのだ、身体が動かなくなったら家族はどうすれば良いのか、介護ばかり受けて申し訳ない、もう人生は終わりだ……。

これが“二の矢”です。「半身不随」という最初の矢に反応した脳がさまざまな思考を生み、そこに付随して表れた新たな怒り、不安、悲しみが次々とあなたを貫き、いよいよ苦しみは深まっていきます。

しかし、「半身不随」の極限状態まではいかずとも、“二の矢”は誰もが経験する心理でしょう。

・上司が理不尽な文句をつけてきたことに対し(一の矢)、「自分が悪かったのか、それともあの男がリーダー失格なのか」などと思い悩む(二の矢)
・同僚が昇進したことに対し(一の矢)、定期的に「私の能力が低いのか……」など自分を責める(二の矢)
・貯金が少なくなったことに対し(一の矢)、「このままでは将来の生活はどうなるのか……」と不安を募らせる(二の矢)

特に現代の環境では矢の数が二本で済めば良いほうで、三の矢、四の矢と続けざまに自分を刺し貫く人が少なくありません。

「貯金もなくて将来の生活がどうなるのか……(二の矢)。すべて自分に計画性と忍耐力がないのがダメなのだ(三の矢)。こないだ仕事で上司から怒られたのも、段取りの悪さが原因だったな……(四の矢)」

このように、最初の悩みがまた別の悩みを呼び込み、同じ悩みが脳内で反復される状態を、心理学では「反芻思考」と呼びます。

牛が食物を胃から口に戻して噛み直すように、いったん忘れた過去の失敗や未来の不安を何度も頭のなかで繰り返す心理のことです。

反芻思考のダメージは計り知れず、複数のメタ分析で鬱病や不安障害との強い相関が出ているほか、反芻思考が多い人ほど心臓病や脳卒中にかかるリスクが高く、早期の死亡率が高まる傾向も報告されています(※4)

いつも頭の中で否定的な思考やイメージが渦巻いていたら、ほどなく心を病んでしまうのは当然でしょう。

あなたの“怒り”は6秒しか持続しない

何とも辛い状況ですが、もしここで“一の矢”だけで苦しみを終えることができたらどうでしょうか?

病気が引き起こす最初の苦痛こそ避けられないものの、そこから自分に“二の矢”を放たなければ、苦しみが苦しみを呼ぶ負のスパイラルに陥らずに済みます。

結果として苦しみはすぐに消え去り、残ったエネルギーをもっと前向きに使えるようになるはずです。

突飛な話のように思われそうですが、決して絵空事ではありません。それが証拠に、近年の研究では、“一の矢”の脅威が思ったより長く続かないことがわかってきました。

あなたが誰かから暴言を浴びせかけられたとしましょう。このとき、あなたの脳内では大脳辺縁系がアドレナリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を吐き出し、心と身体を戦闘状態に変えます。

怒りで身体が熱くなり、全身の筋肉が硬くなるのはこれら神経伝達物質の働きによるもので、そのまま何も対策しなければ、あなたは瞬時に相手へ暴言を吐いたり殴りかかったりといった反応を起こすでしょう。

しかし、ここで少しだけ待つと、人間の理性をつかさどる前頭葉が大脳辺縁系を抑えにかかり、少しずつ神経伝達物質の影響を無効化していきます。

前頭葉が起動するまでの時間は平均で4~6秒で、そこから10~15分も経てばアドレナリンやノルアドレナリンの影響力はほとんど消えてあなたの怒りは鎮まります。

つまり、暴言を受けてから6秒だけやりすごせれば、“一の矢”の痛みは過ぎ去るわけです。