人間と動物を分ける「たった1つの違い」
たとえば、インドの動物保護区では、老衰で命を落としたゾウを仲間が取り囲んで涙を流す様子がたびたび報告されています。
また、仲間から離れたヤギは肉親が死んだ際に発する周波数と同じ鳴き声をあげ、エサの分配が公平でないことに気づいた猿は監視員に毛を逆立てて怒りを表現し、子どもを亡くした親クジラは我が子の遺体を連れて延々と泳ぎ続けます。
それぞれの個体がどのような感覚を抱いているのかまでは正確に判断できませんが、近年はMRIの研究が進み、ネガティブな出来事に対して、ヒトと動物は脳の同じエリアが活性化することもわかってきました(※2)。
すべてを勘案すれば、哺乳類には「苦」の感情があるとみなすのが自然でしょう。
が、ひとつだけ動物と人間には重要な違いがあります。それは、哺乳類は苦しみをこじらせない、という点です。
人間なら数年は苦しみが続く悲劇が起きても、不安で眠れない苦境に襲われても、動物たちは少しの間だけネガティブな感情を露わすだけで、すぐ以前の状態に戻ります。
人間の飼育下にある動物なら抑鬱や神経症に近い行動を見せることもありますが、野生の動物が慢性的な不安や鬱に悩むケースはなく、精神疾患が観察されたこともありません(※3)。
ネガティブな感情に襲われるとき、内面に起こっている変化
他人の悪口に延々と怒りを覚え、自分の失敗をいつまでも恥じ、将来の生活や健康に飽くことのない不安を抱く生物は地球上で私たちだけです。
同じ哺乳類でありながら、ヒトだけが「苦しみ」をこじらせるのはなぜでしょう?
それは動物よりも知性が高いからだと切って捨てるのは簡単です。動物は老後の暮らしに必要な資金を計算する知性もなければ、過去の失敗を悔やむほどの頭もありません。
人間のように複雑な悩みを持てないのだから、深い苦しみを抱くはずもないように思えます。
とはいえ、この考え方では、チンパンジーのレオが見せた態度は解き明かせません。半身不随で首から下を動かせないほどの苦しみは、動物だろうが人間だろうが大差はないはず。
それでもなお動物だけが平常心を保てるのは、何かヒトに特有の理由があると考えるべきでしょう。
解決のヒントを得るために、いまいちど「感情」について考えてみます。
私たちが苦しみを覚えるのは、果たしてどのような状況なのか? ネガティブな感情に襲われるとき、私たちの内面にはどのような変化が起きているのか?
たとえば、次の場面を想像してみてください。
・子どもが言うことを聞かないのでつい怒鳴りつけてしまった
・友人にメッセージを送ったが返事がなく気が気でない
・働いても給料が上がらないせいでやる気が失せた
・上司や同僚に嘘がバレて逃げ出したくなった
怒り、不安、悲しみ、恥、虚しさ。いずれもごく日常的な感情ですが、発生している「苦しみ」の種類はそれぞれ違います。これらの状況に共通するポイントとは、いったい何でしょうか?