「伸びた髪が鬱陶しくて、自分で切ろうとする」
在宅介護で後まわしになりがちなのが頭髪のケアだ。介護が始まった当初は家族も介護サービスの対応などに追われて、頭髪のことなんかに気がまわらない。介護生活が長くなってくると髪も伸びてくるから気がつくが、「家で介護を受けている身で誰かに会うわけじゃないし、髪など整える必要はないだろう」と思ってしまうわけだ。
「でも、要介護の方も髪が伸びても我慢を強いられるのは、ものすごいストレスなんです。それが原因で気分が落ち込み、心身の衰えが進行する方も少なくありません」と語るのは福祉理美容師であり、ケアマネジャーでもある土屋惠子さんだ。
「私は埼玉県東部の松伏町を拠点に、10年ほど前から訪問カットを行っています。訪問カットというのは、要介護や障害などで理美容院に行くことが難しい方のご自宅に伺って、カットやシャンプー、ご要望によってはカラーリングやパーマをかけて差し上げる仕事です。利用された方はみなさん、スッキリしたと喜んでいただけますし、気持ちが前向きになって元気になられます。訪問カットをご存じない方も多いですが、最近では全国展開でカットサービスを行う事業所もできていますし、ぜひその存在を知り、利用していただきたいですね」
そう語る土屋さんに、要介護者の頭髪ケアの現状と訪問カットについて聞いた。
介護で優先されるのは、やはり身体のケア。日々の生活や命に関わらない頭髪のことは、どうしても後まわしになる構図があります。特別養護老人ホームなどの施設では、定期的に理美容師が出張し、カットを行いますが、在宅の場合はその判断が介護する家族にゆだねられ、そのまま過ごすことも少なくないといいます。
土屋さんはケアマネジャーとして、そのために起こるトラブルを数多く見てきたそうです。
「伸びた髪が鬱陶しくて、ご自分で切られてしまわれる方がいるんです。また、認知症の方がハサミで髪を切ったりすれば危険ですし、ベッドの周りが髪の毛だらけになって困ったというケースもあります」
デイサービスのなかには、月に数回、出張理美容師を呼んで、髪をカットするサービスを行う事業所もあるそうです。
「でも、そうした利用者のニーズに応えようとするデイサービスは限られています。在宅で介護を受けられている方の多くが、頭髪カット難民といっていいでしょう」