いつ急変するかと不安な自宅療養中のコロナ陽性者
新型コロナウイルスの新規感染者数は減少傾向にあり、待ち望んだワクチンの接種も始まりました。状況は少しずつですが、好転しているといえるでしょう。
とはいえ病床不足は相変わらずで、感染しても入院がかなわず自宅療養を強いられる人は少なくありません。入院を見送られるのは比較的症状が軽い人ですが、そのなかには病状が急変して亡くなる人もいる。自分が感染した事実を突きつけられただけでもショックなのに、自宅に隔離され、そうした報道に接すれば不安に襲われます。「自分もそうならないとは限らない」と。
そんな折、あるニュース番組で、コロナ陽性者で自宅療養している高齢者宅を訪問して診察する医師を紹介していました。「訪問診療」の医師です。このニュースの中では、医師がクルマで自宅前まで行き、防護服を身に着けて入室。症状を聞いたり、血中酸素濃度を測ったりしていました。医師に診てもらえるということだけで不安は薄まりますし、孤立感もなくなるでしょう。患者の姿は画像処理されていましたが、「救われた」という安堵が感じられました。
昔なつかしい「往診」とは異なる「訪問診療」の仕組み
この「訪問診療」ですが、現状、認知度が低いかもしれません。「自宅まで診察しに来てくれるお医者さんがいるのか」と驚く人も多いのではないでしょうか。
かつて昭和時代には、診察カバンを持った白衣の医師が家に来て診察する「往診」が当たり前のように行われていました。地域のつながりが現代よりあり、多くの住民は開業医と顔見知り。だから体の具合が悪くなると、電話をして来てもらい、当時は自宅での看取りも珍しくありませんでした。
しかし社会の進歩とともに医療システムも様変わりしました。多くの地域に大病院が新設され、救急体制も整いました。体に異変が生じたら、119番をすれば救急車が駆けつけ、病院に搬送してくれる。近所のかかりつけ医に助けを求める必要がなくなったのです。
また、健康診断が一般化し、誰もが健康に気をつかうようになりました。少しでも数値に問題があると医師に頼る。そのためクリニックは満員で医師は大忙し。そんな医師が往診に出るのは大変ですし、患者の側も「来てもらうのは申し訳ない」という意識が働きます。
そのような流れの中で「往診」する医師の姿を見かけることは少なくなりました(今も、往診が行われている地域はある)。多くの人に「体の具合が悪くなったら往診」という発想はなくなり、それに代わって増えてきたのが「訪問診療」です。