高評価の著書とサプリ広告に囲まれた待合室

初めから医師と名乗ると警戒されて門前払いやお茶を濁される可能性があったため、患者の家族を装って家族相談料2万円を支払い、実際に相談し会話を録音した。その医師の見解や治療法の全容を聞いたのちに医師と明かし、その医学的説明を迫った。

今回の設定は以下のとおりである。偽名としてマツカタという姓を名乗り、母親が左乳がんT1cN1M0(2cm以下の乳がんで脇のリンパ節転移が1つ、遠隔転移なし)で手術も抗がん剤も嫌がっているため、どのような治療があるかと相談をした。普通なら手術+放射線+薬で95%は治る見込みの状態だ。

患者の設定
画像提供=上松正和
クリニックで相談した患者の設定

クリニックは都内のビルの一角にある、清潔でごく普通の診療所だ。受付も変わったところはなく受付1名、作業員(看護師?)1名がいた。少し変わっていたのは、待合室にズラッと並べた著書の数々と、院長が勧めるサプリのビラが至るところに置いてある点だ。待っている間にそれらの著書をネット書店で検索してみると評価は星4つ以上ばかりだった。開いてみると医学的に誤りの記載が多く、とても医療者が読める程度のものではなかった。なるほどレビューを買って、著書を広告塔にしているのだろう。

早速、医学的根拠のない説明が飛び出した

10分ほど待って、院長室のある奥の部屋へ案内された。60〜70代くらいの普通の男性である。ただ挨拶してまもなく彼から出てきた言葉に驚かされた。

「マスクはいらないよ」

彼は私が入ってくるなり床のカーペットを指し「電磁波ゼロ」だよと言い放った。電気カーペットじゃないと言いたいのだろうが医学的に無意味な発言だ。電磁波というのはよく詐欺医療では攻撃の対象になる(体に悪いという意味で。ただしその根拠はない)が、早速の展開に少々面食らった。

次に医師は光触媒があるからマスクは外して良いなどと言いだした。仮に光触媒にウイルスを失活させる力があったとしても彼と私の間に光触媒はないため、十分に感染のリスクがある。私はワクチン接種しているが相手は打っていない可能性が高かったためマスクを外すことはしなかった。

診察室での会話イメージ
画像提供=上松正和
よくある詐欺医療と同じく「電磁波ゼロ」をアピールする医師