がん研究会有明病院は「がんセンター中央病院の分院」

その後もとんちんかんな発言が続いていく。母親の経過として近くのクリニックで診断を受け、がんセンターに紹介されたと説明。すかさず彼はがんセンターが築地か有明かと問う。医療者にとってはがんセンターといえば築地にある国立がんセンター中央病院を指し、がん研といえば有明にあるがん研究会有明病院である。だが、確かに非医療者からすると2つの区別はあまりわからないということもよくある。

私がとぼけたふりをして「有明もがんセンターと呼ぶのか」と問うと彼からは驚きの答えが返ってきた。「(築地の)分院ですよ」。患者ならともかく、医療者、ましてやがんを扱う都内の医師でその2つを混同することはまずない。がん治療を本気でやっているか極めて怪しく、どんなに適当なことを言っても患者なら騙せるという態度が見えた。

診察室での会話イメージ
画像提供=上松正和
がんの治療拠点について医療者なら明らかに誤りと気づく説明をする医師

抗がん剤を目の敵にしたウソばかりの説明が続く

話の肝に入っていく。今回の患者設定では手術+放射線治療+抗がん剤とがんセンターの医師に言われたが、詐欺クリニックの医師はどう答えるのだろうか。すると意外な答えが返ってきた。「手術は必要な場合が多い」と。その答えに一瞬戸惑った。私はてっきり標準治療を全て否定するものかなと思っていたが彼は手術を肯定した。

だが抗がん剤と放射線治療はすぐに否定した。特に抗がん剤は攻撃するターゲットにしていたようだった。抗がん剤を使用するとがん細胞が1000倍になる、逆に転移する、抗がん剤治療をしたら死ぬというエピソードをひたすら聞かせてきた。しかしそれらは実際にウソばかりである。

例えば国立がん研究センターが出している統計データによれば、(抗がん剤使用も含まれる)乳がん1期の5年生存率は100%である。そこで、私がどれくらい死ぬのかと確率を聞いても、医師はそれはわからないとはぐらかす。「ウソはついていない」と言いたいがために言質をとられそうなところは避けているのだろう。

診察室での会話イメージ
画像提供=上松正和
医師は抗がん剤治療をことさら否定した