菅首相や自民党はIR反対に方針転換したのか?

新聞の社説はどこも選挙結果の出た翌々日の8月24日付で横浜市長選を取り上げた。ざっと見出しを並べてみると、「足元からの首相不信」(朝日)、「地元が示した首相不信任」(毎日)、「政権不信が与党の惨敗招いた」(読売)、「信頼回復は容易ではない」(産経)といずれも「菅首相への不信」を強調している。

その「不信」の中身を具体的に見て行こう。

朝日社説は冒頭部分で「先の東京都議選に続き、極めて厳しい民意が、自民党総裁選と衆院選を間近に控える首相につきつけられた」と指摘したうえで、「このままでは、国民の信頼は取り戻せないと、知るべきだ」と主張する。

内閣総理大臣に対する意見としては、もの言いからしてとても厳しい。裏を返せば、朝日社説はそれだけ菅首相が嫌いなのである。

朝日社説は菅首相が小此木氏を支持した理由をこう分析する。

「首相は安倍前政権の官房長官当時からIRの旗振り役を務め、地元横浜市は候補地として有力視されていた。にもかかわらず、今回、小此木氏支持を打ち出したのは、市民の間に反対が強いとみて、野党系市長の誕生阻止を最優先したのだろう」

確かに菅首相の思惑のひとつには、この野党系市長の誕生阻止もあっただろう。ただ問題なのは、菅首相がIR反対の小此木氏を支援する理由をはっきりと示さずに曖昧にしたまま、応援に回ったことである。「菅首相や自民党はIR反対に方針転換したのか」と戸惑った横浜市民や国民は多かったはずだ。

この点について朝日社説は「本来であれば、IR誘致をどうするのか、方針を転換するならするで、党内論議を重ね、意思統一をしたうえで有権者に提示するのが、政党としてあるべき姿だろう」と指摘するが、その通りである。

政権への不満が噴出し、小此木氏が逆風を受けた

毎日社説は菅首相の小此木氏支援の理由について「地方選挙にもかかわらず注目されたのは、首相が前面に出たからだ。内閣支持率が低迷する中、市長選勝利を求心力の維持につなげたいとの思惑もあった」と指摘し、小此木氏の敗因をこう分析する。

「もともとカジノを含む統合型リゾート(IR)の市内誘致の是非が争点だった。だが、選挙戦が始まると有権者の関心はコロナ対応に集中した。政権への不満が噴出し、小此木氏が逆風を受ける形となった」

横浜中華街
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新型コロナの対策では世界中の国々が手を焼いている。菅首相だからうまくいかないというわけではない。感染力が強いとされるデルタ株への置き換わりで、「神奈川県の感染者数は7月下旬から急増した。連日2000人を超え、病床使用率は約85%と危機的状況だ」(毎日社説)との現状ではどうして政権に国民の批判の矛先が向く。菅政権をかばうわけではないが、だれが首相になっても新興感染症のコントロール(制御)は難しい。