新時代に適合できない会社員が解雇される可能性は十分にある
こうして日本型雇用システムが崩れていくと、このシステムと密接な関係をもっていた解雇規制も影響を受けざるを得ない。そもそも法律は、何が何でも雇用を保障すると定めているのではない。解雇には正当な理由が必要で、解雇をする際には適切な解雇回避をすべきだというのが、この法律のポイントだ。何が正当な理由で、何が適切な解雇回避かは、解釈に幅があり、それは最終的には裁判官が判断することだ。
従来の日本型雇用システムの下では、本人の能力不足や企業経営の悪化といった程度では正当な理由とは認められず、仮に正当な理由があっても、長期雇用の暗黙の約束をしている正社員には、解雇回避義務を重く課すという、厳格な解釈がなされてきた。だから重大な非違行為をおかすようなことでもないかぎり、正社員の雇用は安泰だった。しかし今後、社内でのDXが急速に進行してAIやロボットが人間の業務を代替するようになると、新しい技術環境に適合できない者は、正社員であっても、裁判所が、解雇の正当な理由を認め、かつ会社ができる解雇回避の措置にも限界があるとして、解雇を有効と認める可能性は十分にあるのだ。
創意工夫する能力がDX時代には求められている
DX時代では、会社に雇われて、その指示を受けてやっていたような仕事の大半は機械が行う。つまり、雇用労働者の多くは不要となる。もちろん自営でやるとしても、機械でできるような仕事では稼いでいけない。結局、どのように働こうが、機械に負けないスキルなしでは、どうしようもないのだ。
では、どのようにしたら、そうしたスキルを身につけられるのか。教育の重要性は、いつの時代も言われてきたことだが、現在では深刻さが格段に増している。日本型雇用システムでは、会社が長期雇用を前提とした正社員に教育訓練を施してきた。日本の職業教育は、会社が担ってきたのだ。しかし、日本型雇用システムが機能しなくなると、もはや会社に頼ることはできない。雇われない働き方となると、なおさらだ。誰かに教えてもらうという受け身の姿勢では、激しい改革の波にのみ込まれてしまう。自分の職業能力は自分で磨くという意識改革がまずは必要だ。
では、何を学習すればよいのか。その答えを得るのは簡単なことではない。変化の激しい雇用社会における将来予測は、きわめて難しいからだ。ただ少なくとも言えるのは、いま存在している職業のスキルを習得しても、それが10年後には使えなくなる危険があるということだ。だからこそDXが高度に進行し、AIやロボットが日常的に仕事や生活の領域に入り込んでいる状況を想定して、そこから現在やるべきことを逆算して備えることが必要なのだ。そこで意識しておいたほうがよいのは、AIやロボットは、人間社会の抱える社会課題を解決するための手段にすぎないことだ。どのような社会課題を、どのように機械を使って解決するかを考えるのは、人間がやるべき仕事だ。そこで創意工夫して社会に貢献できる能力こそが、DX時代に求められるものだ。