セーフティネットの手厚さが会社員のメリットだった

ギグワーカーと会社員の最も大きな違いは、セーフティネットにある。とくにこれが明確に現れるのは、何らかの理由で働けなくなったときだ。

会社員であれば、業務上のケガで働けなくなった場合には労災保険が適用され、療養費は無料であるし、休業時の所得もトータルで8割まで補償される(これは正社員だけでなく、非正社員も同じだ)。また業務上ではないケガや病気の場合も、健康保険に加入していれば最長1年半、3分の2の所得補償(傷病手当金)がある。仕事を失った場合には、雇用保険による失業給付もある。ところが、雇われない働き方の場合には、労災保険も雇用保険もない。加入する国民健康保険には傷病手当金はない(なお、健康保険や雇用保険は、労働時間数などの要件があるので、アルバイトなどの多くの非正社員も加入できない)。

政府も、会社員と自営業者との間の格差を等閑視しているわけではない。例えば、2021年3月に、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を出して、フリーランスと取引する発注企業に「優越的地位の濫用」(正当な理由なく報酬支払期日を延長したり、報酬を一方的に減額したり、作業のやり直しを命じたりすることなど)をしないよう注意を喚起している。ただ、これによってフリーランスに何か具体的な権利が認められているわけではないので、労働法によって権利が認められている会社員とは、保障の程度が大きく異なる。

また、労災保険については、一定の業種や職種の自営業者も特別に加入できる制度があり、フードデリバリーの配達員も、6月にそのリストに追加された(施行は9月)。ただ、この制度は、加入は任意で、保険料は自己負担なので、会社に加入が義務付けられ、保険料も全額会社負担である会社員と比べると、セーフティネットとして見劣りがする。

これまでは、セーフティネット面からみれば、会社員がなかなかその働き方を捨てられないのには十分な理由があった。

自営業者は、「自分がボス」なので、頼れるのも自分だけだ。一方、会社員には、会社という頼れる組織がある。安心感という点では、会社員のほうが格段に大きい。でも、こうした安心感は、いつまでも持ち続けられるわけではない。