蓄積した知識や経験ではAIには太刀打ちできない

しかしDXのインパクトは、こうした省人化・無人化だけにとどまらない。これだけなら既存の業務の効率化にとどまるだけの話だ。DXの真のインパクトは、実は人間がこれまでやれなかったようなことも、やれるようにするところにある。なかでも重要なのが、AIが大量のデータを学習して、正解(精度の高い予測)を提案できることだ。

気象予報、クレジットカードの不正請求の発見、放射線画像からのがんの発見などが典型例だし、AIをつかって個人ごとの最適学習を可能とするアダプティブ・ラーニングは近未来の標準的な学習法だ。求人企業と求職者との間のマッチングにも利用が可能だ。学生が求人情報サイトをどのように閲覧したかの行動ログから、その内定辞退率を予測することもできる(このビジネスは、学生からのデータの収集方法に不手際があり、社会問題となった)。

AIの予測精度を高めるためには、良質なデータが十分にそろうことが必要だ。データがなければAIは力を発揮できない。しかし、最近はWeb上のデータだけでなく、現実世界のデータが、あらゆるところに設置されたカメラやセンサーで収集されインターネットをとおして大量に蓄積できるようになった。人間では捉えられないものまでデータとして把握され、それをAIが解析し、その成果が社会に還元されていく。DX時代の働き方は、こうしたことができるAIとの共存を前提としなければならない。

ベテラン社員は、これまでは、蓄積してきた知識や情報、豊富な経験に裏付けられた勘の鋭さなどによって、社内で優位性を発揮することができた。しかし、こうした知識、情報、勘では、AIに太刀打ちできない。DXを一番脅威に感じるのは、これまでのスキルが使えなくなるベテラン社員だろう。

もっとも、AIも万能ではない。データが十分に集まらない領域で正解を模索するといった作業は、AIにはまだできない。例えば、先例にとらわれず、新たなアイデアで仕事をしてきたような人は、当面はAIに代替されることはないだろう。つまり、今後必要とされるのは、過去の成功モデルを壊し、革新的なアイデアを企業に注入してくれるような知的創造性を備えた人材だ。一方、これまで重用されてきた、忠実に過去の成功モデルを踏襲できるというタイプの人材の居場所はなくなるだろう。

通年採用、副業容認…崩壊する日本型雇用システム

多くの学生が、厳しい就職活動を経て内定を得るために必死の努力をするのは、それにより、正社員という地位を得て、安定を得るためだ。安定があるからこそ、転勤を命じられたり、残業や休日出勤を命じられたりするなど拘束性が強い働き方も耐えられる。しかも、その安定は、単なる期待ではなく、法律によっても解雇規制という形で保障されている。これが従来の常識だった。

就職面接を待つ人々
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確かに、労働契約法という法律では、解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められない場合には無効となると定められている。これは、元々は裁判所で認められていたルールであり、戦後に確立した日本型雇用システムの中核にある長期雇用慣行と密接不可分のものとして形成されたものだ。

しかしその日本型雇用システムは音を立てて崩れようとしている。これまでの会社員たちが耳を疑いたくなるような動きが起きている。例えば、新卒定期一括採用を見直して通年採用や初任給の格差などを導入する動きがある。これは、いわば雇用の入り口のところからの改革だ。これまでは自社への忠誠を求めてきたのに、一転して、副業を容認したり、別会社への転籍を積極的に推奨したりする動きも現れている。また正社員と非正社員の処遇の格差解消をめざす動きは、正社員からすればその優位性を剥奪する動きであり、これも日本型雇用システムを内部から崩していくものだ。