フードデリバリーの配達員などの「雇われない働き方」が注目を集めている。その働き方にはどんなリスクがあるのか。労働法に詳しい神戸大の大内伸哉教授は「リスクがあるのはギグワーカーだけではない。日本の雇用システムは崩壊しつつあり、古い働き方をしている会社員も失職のリスクがある」という――。
デジタル技術の発達が人間の仕事を奪いつつある
街中で、少し大きな箱を背負って自転車に乗る人をみかけることが増えた。フードデリバリーの配達員だ。広い意味での「アルバイト」の一つだが、特定の会社に雇用されず、それゆえ労働法の適用を受けず、自営業という形態で働くところに特徴がある。仕事は単発の臨時的なものであり、即興の演奏を意味する「ギグ」という音楽用語をつかった「ギグワーク」という名で呼ばれることが多い。
ギグワークは、いわゆる「雇われない働き方」の代表だ。会社員のように定時に出勤する必要はないし、誰かに指揮監督されて働くわけでもない。受ける指示は仕事をするうえでの必要最小限のものだし、気が進まないときは仕事を断ることができ、もちろん残業が命じられることもない。安定した収入は望めないが、それは必ずしも欠点ではない。むしろ、やればやるだけ収入が増えるというわかりやすさがあり、体力さえあればかなり稼げるのがこの働き方の魅力だ。
こうした自由な働き方は、会社員にはできない。しかし、会社員がこの働き方にすぐに飛びつきたくなるかというと、そうではなかろう。会社員には、会社という組織に所属することにより、自由を犠牲にしても、さまざまな保障や安定が得られるという大きなメリットがある。このメリットがあるからこそ、「いつでも、どこでも、なんでもやる」という拘束的な働き方やワーク・ライフ・バランスの犠牲も我慢できた。
ただ、この会社員の安定が危うくなっている。デジタル技術の発達が、人間の仕事を奪いつつあるからだ。安定もなく、自由もないとなると、この働き方は一転して最悪なものとなりかねない。