焼肉人気は「換気の良さ」だけではない

なぜコロナ禍で焼肉業態が堅調なのでしょうか。

一番よく言われる理由が換気の良さです。最近の焼肉店では無煙ロースターを使うか、七輪の上に大きな換気扇を設置するのが主流です。そうするとだいたい3分で店内の空気が入れ替わります。換気のいい焼肉店がクラスターになりにくいことは広く知られているため、安心して出かけることができる。これが一番の理由です。

そのうえで二番目以下の理由が加わってきます。

二番目の理由として挙げられるのは、家庭で焼肉を楽しまない家が増えているという事情です。これは最近さんまを焼かない家庭が増えてきたのと同じで、リビングルームに油やにおいが染みつくのを避けるライフスタイルの家庭が増えているのです。

その反動で「外食に行くなら家で食べられない焼肉にしよう」という選択をする人が増えてきた。回転寿司と並んで焼肉は、休日の贅沢の2本柱になっているのです。

回転寿司
写真=iStock.com/Nayomiee
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三番目にコロナの影響でリモートワークが増えたという事情があります。自宅で仕事をして夜、家族で食事をする。共働きであれば自宅の近所で食事をしようという話になります。そうなるとオフィス街の居酒屋から、ロードサイドの焼肉店にアフターファイブの需要が移ります。

実際、コロナ禍で伸びている焼肉業態の多くがロードサイド店舗のチェーン店です。六本木や銀座にある接待需要の焼肉店と比べても、ロケーションとして住宅地に近いエリアの焼肉店が強い。人流のシフトが起きているのです。

接待需要激減で、高級和牛の相場が下がっている

そして四番目の要素はこの三番目の要素と表裏となるのですが、高級和牛の相場が下がっているという事情があります。

コロナ以前は株高からの富裕層需要の増加で、高級和牛の生産量が徐々に増加していました。ところが2020年になってコロナのせいで接待需要が激減します。東京市場での最高ランクのA5の黒毛和牛の相場価格は対前年比で90%まで下がり、在庫は逆に増加します。

自民党が国民に和牛券を配ろうと言い出した背景が、この高級和牛余りの在庫状況でした。和牛券は実現しませんでしたが、結果としておいしい黒毛和牛が比較的大衆的な焼肉チェーンでも広く出回る状況になりました。

このようにしてコロナ禍で、家庭でふんぱつして焼肉を楽しむと、特別感だけでなく贅沢感も味わえる状況になった。コロナ禍では実は焼肉はコスパのよい選択肢になっていたのです。