母のオムツをうんちまみれになりながら一生懸命替えていた父

「父は、寝たきり状態になってしまった母のオムツを、うんちまみれになりながら一生懸命替えていました。正直、父がこんなに母の面倒を見てくれるとは思っていませんでした」

検査の結果、母親は「椎体椎間板炎」と診断。腰の筋肉に膿疱があり、脊髄も菌に侵されているとのことだった。

「最初にかかった整形外科医も、かかりつけの内科医も見逃した重大な病気がようやく明確になり、父も私も力が抜ける思いがしました。この病院に来ることができなかったら今頃どうなっていたか……」

柳井さんは背筋が寒くなった。

服の上からオムツをあてがって見せるシニア女性
写真=iStock.com/Toa55
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「オムツいじりが始まったので、介護服を用意してください」

母親は大学病院に入院すると、手にはグローブのようなものがはめられ、腹部はベルトでベッドに拘束された。母親が勝手にベッドから降りたり、点滴を抜いたりしてしまうのを防ぐためだ。

母親は「腰が痛い!」と言い出した辺りから、「イケメン!」「お姉ちゃんいい顔してるね! 素敵!」などと看護師など誰彼構わず褒めまくるようになっていた。

「認知症になる前の母は、口数が少なく、人前に出るのが苦手で、冗談など言うタイプではありませんでした。どんなに変わってしまっても私のお母さんであることには変わりないのですが、私はどうしても以前の母と比べてしまう自分と戦っていました……」

保育園が年末年始休みに入ると、柳井さんは生後2カ月の次女を病院まで連れて行き、待合室で父親に預け、長女は家で夫に預けて母親の面会に出かけた。しかしまだ2歳の長女は、柳井さんにべったりで、離れようとすると大泣き。それでも夫と2人がかりでなだめて出かけると、母親と面会している間も長女のことが気になって落ち着かない。結局足早に帰宅すると、今度は夫が不機嫌に。

「そんなイライラしないでよ!」と柳井さんが言うと、「そっちだってイラついてるだろ!」と夫。

気軽に「母の面会に行きたい」と言い出せなくなってしまった。

2020年1月、インフルエンザにかかった父親に代わって伯母と面会へ行くと、母親はうんちをしたオムツを自分で外し、振り回していた。翌日看護師から「オムツいじりが始まったので、介護服を用意してください」と声をかけられる。

柳井さんは初めて聞く「介護服」をインターネットで検索し、購入した。