二階幹事長の地元・和歌山が、IR誘致に積極的なワケ

小此木氏がIR誘致反対を掲げて横浜市長選への出馬を決めた同じ6月。和歌山県は県内への誘致を進めているIRの事業候補者にカナダのクレアベスト・グループを選定したと発表した。国内のIR計画で実質的な運営事業者を選んだのは初めてだ。

同県は和歌山市南部の人工島「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致を目指している。県の事業者公募には2社が応じたが、5月に1社が撤退し、クレアベストのみの「無投票当選」となっていた。

クレアベストの提案によると、延べ床面積は56万9000平方メートルの規模で、MICE施設(国際会議場や展示場)や宿泊施設、カジノ施設などを建設する。初期投資額は約4700億円で、県がIR基本構想で示した約2800億円を大きく上回る。開業4年目の経済波及効果は約2600億円、雇用創出効果は約1万4000人を見込むという。

事業費を大幅に積み増した背景としてIR誘致をいち早く表明することも加え、国に対してアピールして国内で最大3カ所とされるIR選定を勝ち取る思惑があるとみられる。

和歌山は自民党・二階俊博幹事長の地元だ。さらに全国旅行業協会(ANTA)の会長として、「GO TO トラベルキャンペーン」の実施など、旅行・観光業界と深い関係にある。地元へのカジノ誘致も地元振興に加え、支援を受けている旅行観光業界への配慮も透けて見える。

夕暮れ時のラスベガス・ストリップ
写真=iStock.com/Alina555
※写真はイメージです

ただ、仮に誘致に成功したとしても和歌山で事業面での採算が取れるかは未知数だ。クレアベストと並んで入札に参加していたマカオのサンシティ・グループは新型コロナの影響で5月に撤退した。

強引なIR誘致には与党内でも冷ややかな見方

和歌山と同じく、まだIRの誘致活動を進めているのが大阪だ。

大阪では2025年に大阪万博が開催される。その夢洲地区をIR拠点として整備する計画だが、その理由として「万博後に夢洲一帯が空き地になる事態を避けたい」(関経連幹部)との思惑がある。

しかし大阪のIRに手を挙げているのは米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同グループ1社のみ。府・市が4月まで実施した追加公募でも、新たに応じた事業者はいなかった。

MGMは21年1~3月期の決算では約364億円の最終赤字となるなど足元では厳しい状況が続く。「いつ撤退を言われてもおかしくない状況」(同)にあるのは横浜や和歌山も同じだ。

旅行・観光業界を支持母体に持つ二階氏と、その二階氏に生殺与奪の権を握られている菅政権。当初は「外交上の要請」でもあり、与党内でIR誘致について理解を示す議員は少なくなかった。しかし、コロナ感染と菅政権への支持率低下で世論を無視した強引なIR誘致は冷ややかな見方が多くなっている。

東京五輪も非常事態宣言発出で東京など首都圏では無観客での開催となった。飲食店への営業自粛要請で外食産業の経営への影響は深刻さを増し、東京五輪開催に期待を寄せていた旅行業や観光業も「無観客」開催の広がりで政権への信頼が揺らいでいる。

もともと政策の大義の薄弱な「カジノ誘致」にこだわり続ければ、菅・二階両氏による現政権の命取りになりかねない。

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